自分の少し前を歩く背中は、少し怒っているように見えた。この手を引く腕を放さないでくれてはいる。けれどやはり怒っているのだろう。顔を見なくても、言葉にされなくても、わかる。
「なぁ・・・秋文」
「なぁにカンナちゃーん? 野郎と手ぇ繋いで歩くのはやっぱ嫌い?」
「お前、怒ってるだろ」
「・・・そー見えるんだ?」
 秋文は振り向きもせずにそう答えた。遊志はふう、と呆れたように息を吐き出した。途端に、切れた唇がひり、と痛む。
 そら見たことか。
「やっぱし怒ってんじゃねぇか」
「・・・・・・・・・」
 秋文は答えない。振り向きさえ、しない。
 遊志は不意に立ち止まった。秋文の右腕と遊志の左腕がぴんと張り、ついで緩む。
「どこまで行く気だよ。俺の家もお前の家も、あっちだろうが」
「ここじゃないどっか」
「・・・秋文?」
 秋文はふっと口をつぐんだ。遊志は少し躊躇ってから、秋う文の隣に並んだ。見上げた横顔は険しい。
 ああ、やはり怒っている。
「・・・何、怒ってやがる。そんなに俺がひとりで喧嘩やってたのが――」
「なぁカンナちゃん」
 秋文がようやく遊志に顔を向けた。いつもと違うぎこちない笑み。遊志はその表情に、何故だか心が冷えるのを感じた。
「カンナちゃんはさ、オレがどんだけ怪我させられてもヘーキでいられる?」
「・・・若干キレる」
「オレはブチギレるから」
「・・・・・・」
「頼ってよ、オレのこと」
 秋文の顔から、灯りを消したように表情が消えた。俯き加減の秋文の顔は、ひどく沈んでいるかのように見える。
「あき――」
「オレ、カンナちゃんのこと・・・大事よ?」
 秋文は寂しげにそう呟いた。
「大事だから、オレの知らないトコで傷つくの・・・すげぇ嫌だ」
「・・・おう」
 尻尾を垂れたゴールデン・レトリバーのようだと思いながら、遊志は頷いてみせた。
「俺が悪かった。謝る」
「・・・ああ」
 秋文がようやく笑った。まだ少しぎこちない笑みではあったけれど。
「ダチだもんな。あてにしとく」
「・・・おう。任せとけって。秋文様にかかれば怖いモンなしだぜ〜」
 秋文が冗談めかして言った。遊志が吹き出す。
「切り替え早すぎ、お前」
「それがオレの取り柄だし〜」
「バーカ。褒めてねぇよ」
 軽口をたたきあいながら、家路につく。分かれ道についても秋文の表情はぎこちないままだったが、遊志は気付かないフリをして秋文に手を振った。



 実はずっと前から頭の中をうろついてたふたり組だったり。
 このふたりは微妙な距離感がいいと思うの。
 秋文はきっと遊志至上主義だと思います。
 きっとこの後遊志に粉かけた(違)連中のトコへ殴りこむんだろう。とか思ってみる。

2006/03/14