「綾目、帰らないのか」
 そう尋ねてくる声。もう随分と耳に馴染んだようだと、綾目は本を閉じながら思った。
「君こそ帰らないのか? 毎日毎日、わざわざ僕なんか待ってて楽しいのかい?」
「何でそうなる」
「気づかない訳がないだろう? 僕に声をかけてくる奇人は君くらいのものなんだからね、嵯峨恭一」
 ついと眼鏡を指先で押し上げながら、綾目は嫌味ったらしい口調で言った。恭一は呆れ顔で答える。
「自分で言うか、普通?」
「勿論だよ。正確な自己認識だと思わない? そんなことより、僕は君の意図を是非聞いてみたいね」
「俺の意図、だと?」
「そうだよ。君は、このクラスで浮きに浮いてる僕に恩着せがましく手を差し伸べようって馬鹿な偽善者じゃない。この僕に声をかけざるを得ないほどクラスで孤立している訳でもない。僕に構う必要性は全くないだろう?」
「・・・お前な」
 恭一はため息をついた。よくもまあ、これだけ長い台詞をすらすらと並べられるものだ。
「今更それを訊くのか?」
「今更だって?」
 綾目は怪訝な顔で訊き返した。何が今更、だというのだ。
「普通、毎日声かけんのも、一緒に帰んのも、待っててやろうと思うのも、ダチだからだろうが」
 違うか? と問われ、綾目は驚いたように口を噤んだ。恭一は眉間のしわを押さえながら、ため息混じりに訊いてみる。
「お前、俺のこと何だと思ってたんだ・・・・・・」
「物好きなクラスメイトだと思ってた」
「・・・おい」
 恭一は綾目を友人として認識していたというのに、どうやら綾目の方は違ったらしい。
「・・・ああ、そうなんだ。こういうのが『友達』ってモノなんだ・・・」
「あ、綾目?」
 とんちんかんなことを言い出した綾目に、恭一は思わず声をかけた。
「そうか・・・嵯峨、すまなかった。あんなこと言って。とんだ言いがかりだった」
「おい、俺にもわかるように話せ。自己完結するな」
「君は僕にとって人生初の友達だ」
「・・・・・・は?」
 何だって?
「だから、僕は自慢じゃないが十六年八ヶ月生きてきた中で友達が出来たことは一度もないんだ。どうだ、性質悪いだろう?」
「・・・本当か、それ」
「こんな嘘ついてどうなるというんだい? 事実さ」
 ふんぞり返って言う台詞ではない気がするが、恭一は何も言わないでおくことにした。
「・・・いい加減、帰るか」
「うん。・・・今更だけど、ありがとう」
「何がだ」
「友達に、してくれて」
「お前らしくもなくしおらしい台詞だな」
「うるさいな、僕はこれでも恩知らずではないぞ」
「そうか。でも、残念だったな」
「何さ」
 ムッとしたように眉を吊り上げた綾目に、恭一は何でもないことのように言った。
「礼を言われるようなことじゃないからな」



 現代学園モノss(と言い張ってみる)。
 この二人、朱音が提出した課題レポートに出させた子達なのです(何書いてんだ)。
 いいんです、多分知人はココに来ないだろうし♪
 なんていうか、綾目君の下の名前が出るかどうか微妙です。だって、またこの子らを使うかどうかが不明だから。
 生まれて十年以上友達出来ない人は滅多にいないと思います、ハイ。実際問題、覚えてないだけかもよ綾目君。

2005/09/17