炎上、崩壊


炎上、崩壊

 「もういいでしょ!!離してってば!」
館の外まで来て、碧が強引に蒼の手を振り解いた。
 「碧、さっきさ、お前・・・」
 「うん。白銀さんは僕のおとうさんだった」
蒼の目が見開かれる。
 「マジかよ・・・もしかしたら、って勘繰ったことはあったけど、本当にそうだとはなあ・・・」
 「・・・・・・白銀は嘘をつかない人ですからね。白銀自身がそう言ったのなら、それが真実なのでしょう」
先に外に出ていたらしい紅、栄が碧の到着を知って近づいてきた。
 「ああ、そうだな・・・白銀は嘘つかねえからな。碧の面倒も、一番よく見てたしな」
 「ま、待てよ・・・俺、よくお前らの家族構成がわかんないんだけど?だってさ、親父さんは最近亡くなったんだろ?
 ええと、つまり・・・どういうこと?」
栄がうんうん唸りながら考えているところに、紅が口を挟んだ。
 「私たちは異父兄弟です。母親は同じですが、父親が違うんですよ」
さらりと、まるで「明日はいい天気になりそうですよ」とでも言ったかのような軽い口調で言われて、栄が慌てる。
 「待て待て、そんなにさらっと流していいところか、ここ!?つまり、最近亡くなった親父さんはなんなんだ!?」
 「俺らはみんなあの親父の息子じゃないってことさ。だが、よく面倒をみてくれた。だから、生みの親以上に親だったんだよ。
 母さんは、ちょっと病気がちで、な・・・まあ詳しいことは言えねえが極端に言えば、正気じゃなかったってところか」
当たり前のように言う蒼の口調にももはや慣れたのか、栄が理解した、というように頷いた。
 「なるほどなあ・・・複雑だったんだな」
 「それでね、白銀さんが僕のホントのおとうさんだったんだよ。・・・いつか、白銀さんみたいな人が僕のおとうさんだったらいいのに、
 って言ったら、笑ってたっけ・・・」
碧の落ち込んだ様子に、栄が辛そうな顔をした。
 「・・・・・・。・・・って、そういえば、白銀一人で大丈夫なのかよ!?無事に戻ってこれなきゃ、碧が・・・」
 「・・・白銀なら、大丈夫さ。少なくとも、俺や栄や紅があそこにいるよりは無事な確率は高いはずだ。というより、俺らは足手まといだ」
蒼が真面目な顔をしてさらに言う。
 「白銀は、いや、その他のうちで使用人として働いていた奴らもほとんどが、実は親父が組織した特殊な部隊だったんだ。
 何の目的でそんなもん組織したのかは今となっちゃわからねえが。そのうちの一人に、白銀もいたんだ」
その話に、紅も碧も驚いた。
 「兄さん、どうしてそんな話を知ってるんです?私は全くそんなこと知りませんでしたよ!?」
 「蒼兄さん、それで?」
 「親父の物を整理してる時に、偶然なんかのノートに書いてあったのを見たんだ。少ししか書いてなかったから、
 詳しいことはわからねえよ」
言って、赤い炎の光を放つ館を振り返った。
 「あとは、白銀が出てくるまで待ってる余裕があればいいけどな・・・。いざとなったら、俺らだけでも逃げよう。いいな、碧」
 「うん」
厳しい言葉だったが、碧は赤いリボンを巻いた熊のぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、迷わず頷いた。
しかしその時、全身に響くような音がした。
 「うわっ!な、何だ!?」
栄が振り向くと、皆ほぼ同時に振り向いた。後方で、館の一部が崩れるのが見えた。
 「な・・・まさか、ボイラー室が爆発したのでしょうか・・・!?」
 「いや、火がついてたから家がもたなかったのかもしれねえ・・・」
 「そんな・・・間に合わなかったなんてこと、ないよね!きっと無事だよね!!?」
碧の呼びかけには答えず、蒼は前方を見据えた。
 「・・・・・・行こう。無事なら、後から追ってくるなりするだろうさ」
駆け出す四人の前に、この時のために待機していたらしい男たちが立ちはだかった。
先頭を走る蒼と栄に、黒く光るものが向けられた。
 「でえっ、銃かよ!!絶体絶命じゃねえか!!」
 「で、でも、どうする!?ここまできたら止まれないって!!・・・っつーか、ここにも銃なんてもんがあるのかよ〜っ!?」
言っている間も、足は動かし続ける。距離が縮まるにつれて、銃を構えた男たちの狙いが定まってきている気がする。
 「二方向にバラけましょう!!何もしないよりはいいはずです!」
紅の言葉に先頭の二人が頷いたのを確認すると、碧が叫んだ。
 「せーのっ!!」
次の瞬間には、蒼、碧が左、栄、紅が右に飛んだ。
 「あっ、まずいっ!・・・いてっ」
栄が着地に失敗して転んだ。照準は狙いである栄に合わせられた。
 「危ないっ、栄っ!」
紅が叫ぶのとほぼ同時に、銃声が聞こえた。
 「〜〜〜っ!!・・・・・・・・・あれ?痛くない・・・」
 「大丈夫ですか!?どこを撃たれ・・・・・・?・・・・・・。どこも撃たれていませんね・・・」
駆け寄った紅もピンピンしている栄を見て唖然とする。
更に銃声が響いたとき、それは起こった。
ピィンと甲高い音がして、栄に当たる手前で銃弾が弾かれたのだった。
 「・・・・・・・・・うそだろ?」
蒼の顔がひきつる。
 「な、なんだかわかんないけどラッキー!!よーし、みんな俺の後ろを走れ!!」
この状況をうまく使おうと、栄がそう提案すると、皆頷いた。
 「・・・どうしてこんなことが起きるんだろ?」
走り出しながら碧が誰にともなく問う。
 「い、今はとりあえず異世界パワーっつーことにしといて、逃げるぞ!」
それに蒼が答えて、後は敵をなぎ倒しながら四人は堂々正面突破していった。



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