到着、薔薇の里


到着、薔薇の里

 「うわあ・・・!!」
目の前に広がる景色に、碧が思わず声を漏らした。
 「どうだい?・・・ここは薔薇の里と呼ばれていてね。私と同じ種族の小さな集落さ」
坂の上から見下ろす景色は、あちこちに赤い花が咲き乱れている。薔薇の里、という名の通り、
それらはすべて薔薇のようだった。
フロウが先頭に立って坂を下りだすと、皆それに続いた。
 「種族?・・・どういうこと?」
栄の言葉は先程から疑問符だらけになってきている。
 「ああ、すまないね。説明する約束だった。まずは、中に入って。ゆっくり話せる場所があるから、そこへ行こう」
きょろきょろとあたりを見回す碧の背中をそっと押して、フロウはそう言った。

中へ入ると、薔薇の香りが風に乗って流れてきた。
 「さ、こっちだ。・・・ここで話そうか。人払いもしやすくていい場所なのだよ、ここは」
奥に進み、一際大きな建物の裏に回った庭に、白いテーブルと椅子があった。そこに座り、
皆に椅子を勧めながら、フロウは早速切り出した。
 「さて、何から話そうか?やはり、私たちの話から順にしていったほうがいいのかな」
 「話しやすいように話していってくれればそれでいいぜ。俺らは聞くしかないわけだしな」
蒼の言葉に頷いて、フロウは語りだした。
 「私たちの種族の話から始めようか。まず、姿形は似ているが、私たちは人間ではない。『バーフーシュ・ロサ』と
 呼んだ者もあったが・・・つまりそう呼ばれている種族なのだと理解してくれればいいかな」
 「『バーフーシュ・ロサ』・・・どこかで・・・」
紅が顎に手を当てて考え込む仕草をした。
 「・・・私たちは基本的に食べ物を必要としないのだよ。ただ、少し薔薇の力を分けてもらう必要があるけれどね」
そう言うとフロウはどこからか薔薇の、まだ蕾の花を一本取り出した。
 「・・・・・・このようにね」
フロウがその花を口元に当てると、薔薇が一気に花開き、そしてあっという間に枯れた。
 「別に蕾でなければならないというわけでもないのだけれど、これが一番わかりやすいだろう?」
目を見開く四人の前で、枯れた花は風に溶けた。
 「す、すげえな・・・」
蒼が唖然としながら呟いた。
 「私たちにとってはこれで生き永らえてきたのだから、すごいことでもないのだけれどね。さて、話を変えようか。
 君たちと私たちの『区分け』の話をしよう。もうはるか昔の話・・・人間は今と違って、自由に町を出入りしていた。
 なぜ、町から出なくなったのか・・・直接の原因は、種族の違いから来たいさかい、かな」
フロウの言葉に、碧が首を傾げた。
 「いさかい?」
それを見て、フロウはゆっくりと頷いた。



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