フロウ、かく語りき


フロウ、かく語りき

 「何もここにいるのは私たちと人間だけではないのだよ。もっと、人の暮らしに関わってくる種族がいるのだ。
 『ルガト・ノクス』・・・他の生き物の血を活力としている種族だ。彼らと人間はいつも対立していたのだよ。
 彼らが人間を襲うから、人間は命を失うことを恐れ、町から出なくなった・・・君たちの町は、夜でも明るかっただろう?」
フロウの突然の問いにとまどいながらも、蒼と紅、碧は頷いた。
 「それは、彼らが光を嫌うからさ。しかし、人間たちの間ではなぜ明かりを絶やさないのかということも、
 忘れられてしまったようだね。・・・だが彼らは、まだ人間のことを覚えているようだよ・・・」
 「ううっ、怖いよう・・・」
静かな声に、碧が身震いをした。それを見て、フロウは微笑みながら碧の頭を撫でた。
 「大丈夫、彼らは君たちを襲わないし、ここには来ないから。この里も光が絶えない。私たちは彼らと違って、光が好きだからね」
 「しかし、それでは『ルガト・ノクス』は今、どうやって生きているんです?」
紅の問いに、フロウが答えた。
 「私に会う前に、血を流した鳥など動物の死骸を見なかったかい?・・・あれは彼らの仕業さ。私たちは薔薇の種族。
 そのようなことをする必要はないからね。つまり、動物の血で生き永らえているのだよ」
さらに言葉を続ける。
 「・・・私たちは間に立ち、人間と彼らの仲を取り成した。・・・彼らは人間を襲わないと誓ったが、
 人間は信用しなかった。だから、外に出なくなったし、光で彼らを遠ざけるのだ。
 彼らは一度口にしたことは守る、話の分かる者たちなのだが・・・いや、例外は稀にいるがね」
ふう、とため息をついて、言葉を切る。
 「大体事情はつかめたような気はするな。・・・フロウ、しかしなんであんたは・・・」
蒼の言葉を遮って、フロウは言った。
 「君たちにこんな話をするのか、だろう?・・・私たちの種族と君たちの違いは、何も暮らし方だけではないのだよ。
 私たちの種族は少しだけ、未来を視る力を持っているのだ・・・。君たちの行く先に、光が見えた。・・・それだけ、だよ」
ふっと笑った顔は、遠くを見つめているように見えた。
 「・・・さて、次は君たちの話を聞かせてもらおうか。私たちは未来を視ることはできても、過去を視ることはできないからね」
片目を瞑って笑ってみせたフロウに、蒼も笑顔で頷いた。

 「ふうん・・・何者だろうね、そいつらは・・・。まあ私もあまり遠くまでいったことはないから、詳しいことはわからないな」
 「やっぱりかあ・・・。いや、いいんだ。ここに招いてくれただけでも感謝してるぜ」
がっくり肩を落としながらも、蒼は感謝の気持ちを伝えた。
 「役に立てなくてすまないね。だが、彼の・・・栄の力については、多少分かることもあるかな」
フロウの言葉に、一気に栄の方に視線が集まった。
 「お・・・俺ぇ?」
急に話が来て、栄が慌てる。
 「彼の力は・・・悪意をはねのける力だろう。原因まではわからないが、そのような力を持った者の話は知っている。
 悪意を持つ者の全てを弾き、混沌としていたこの集落に平和をもたらしたのだ、と」
古い伝承だがね、とフロウは言った。
 「いや、何も分からないよりはよっぽどいい話だった。ありがとな」
栄が笑って言うと、フロウも艶やかな笑顔を見せた。
 「どういたしまして。・・・君たちも、ね。長い話を聞かせてしまったから、疲れているだろう。
 とりあえずゆっくりしていってくれ」

 「フロウもここの人たちも、みんな綺麗な人たちばかりだね」
碧の言葉に、フロウが笑顔になった。
 「そうかい?そう言われると嬉しいね、ありがとう。私から言わせてもらえば、
 君のような少年も十分に可愛らしいけれどねえ」
言いながらぽんぽんと頭を撫でる。
外を案内しようと言ったフロウに真っ先に飛びついたのが、碧だった。
疲れているからと言って早くも寝てしまった三人を置いて、二人は外へ繰り出したのだった。
 「えへへっ」
軽い感触がくすぐったかったのか、照れくさかったのか、碧が笑う。そこへ、里の人から声がかかった。
 「長!!隠し子ですか?」
 「ははは、そうからかうものではないよ。お客人だから、いじめてはいけないからね」
 「やだぁ、そんなことしませんよ」
若い男と女がフロウに話しかけてきた。碧がぱちぱちと瞬きしながら、手を繋ぐフロウを見上げた。
 「おさ?フロウ、偉い人なの?」
その様子を見て、女の方が、可愛い、と黄色い声を上げている。
 「うん、まあ・・・この里の責任者みたいなものかな?君たちは気にしなくていいよ」
曖昧に言葉を濁して、フロウはふっと笑った。



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