黒の長、堂々登場


黒の長、堂々登場

朝になり、まず蒼が起きだす頃には、フロウはもう支度を整えて待っていた。
 「お〜?・・・フロウ、早いなあ・・・」
 「寝癖がついてるよ。・・・今日はもう予定を決めてしまったのかい?」
フロウの唐突な問いに、蒼は寝ぼけた頭を懸命に働かせて答えた。
 「うーん、まだだなぁ・・・。何か、あるのか?」
 「何かことを起こすときにはね、人数は多い方がいいのだよ。・・・これから協力要請をしに赴こうと思ってね」
君たちも来てくれないかと、フロウは言った。
 「・・・・・・どこに行くんです?他に協力が頼めそうなところって・・・」
紅が話し声を聞きつけてきた。
 「ルガト・ノクスに協力を頼むのだよ。彼らなら、まだ話せるだろうしね」
 「ルガト・ノクスって・・・昨日の話の人たち?」
碧も目を擦りながらやってきた。
 「ああ、そうだよ。・・・まだ他にも種族は沢山いるのだがね、ほとんど言葉が通じないか、
 いきなり襲って来る危険な奴らばかりだ。
 人型すらしていないそれに比べれば、ずいぶんと良識的だ」
手に大きな弓を持った姿で、フロウは外が思いのほか危険だということを知らせていた。
 「君たちがよく『怪物』と呼ぶ者たちが、そのような種族だ。襲ってきたら、問答無用で攻撃だよ」
厳しい顔でフロウが言うと、三人は頷いた。
 「だがよ、フロウ・・・あんた、俺たちと・・・」
 「もちろん、一緒に行く気でいるのだが?」
蒼の言葉に、さらりとフロウが答えた。
 「フロウ、一緒に来るの?」
 「ああ。いけないかい?見たところ君たちには外の世界に関して知識が足りないようだ。
 出たばかりでは、わからないことも多いだろう。
 私がいた方が、断然いいと思うがねえ」
目を輝かせた碧の言葉にうんうんと頷き、大げさに語るその様を見て、蒼が苦笑した。
 「わかった、せっかく来てくれるなら来てもらえればありがたい。よろしくな」
それから、後ろのいまだ開かない扉を振り向いた。
 「おら、栄!!いつまで寝てるんだよ、置いてくぞ!!」
蒼が叫ぶと、栄の寝ている部屋で何かが落ちる音、それからうわあっと悲鳴が聞こえた。

 「ルガト・ノクスの住みかは、森の中だ。森は、厄介な奴らの領分だからね、どこから出てきてもおかしくない。
明るいうちに彼らの住みかに着きたいから、さっさと行こう」
フロウが歩きながら言う。
 「・・・なあ、フロウはさ、弓を持ってるけど・・・弓、得意なのか?」
栄の疑問に、碧が答えた。
 「昨日聞いたんだけどね、フロウ、あの里で一番弓がうまいんだって!」
 「ははは、照れるね」
碧の興奮した口調に、フロウが笑った。
 「まあなんにせよ、何も出来ない奴じゃなくて助かったぜ。俺ら、自分の身は自分で守れ!
 って感じでやってきてるからさ」
 「碧はまだ小さいですから、気にしなくていいんですよ」
蒼がからからと笑い、紅が碧ににっこりと笑顔を見せた。

そのまましばらく歩くと、明らかに今までとは雰囲気のまるで違う木々が姿を見せた。
明るい緑の木々は姿を消し、代わりに深く黒い緑が並んでいる。
 「彼らの住みかは、ここ・・・私たちは『黒の森』と呼んでいるのだけれど・・・」
立ち止まり説明をするフロウの声を遮るように、上から声が聞こえた。
 「貴様らはまだ、そのように趣味の悪い呼び名で我らの里を呼ぶのだな」
ばさり、と音を立てて目の前に降り立った姿は、どこまでも深い闇のような色。
 「・・・まず、我らの誓約を受け入れた人の子に敬意を示す」
そう言うと謎の影は丁寧に膝をついた。それから立ち上がり、こうも言った。
 「我の名はヴィレヌスト・ルエ・ルナ。『月光森』の長だ」
羽のついたその姿に、フロウがため息をつきながらこう言った。
 「何格好つけてるんだい、ヴィー君」
 「誰が『ヴィー君』だ!俺の名はヴィレヌスト・・・」
『ヴィー君』と呼ばれて激昂する、ヴィレヌスト・ルエ・ルナと名乗った青年をさらりと無視して、
フロウはくるりと振り返り、呆気にとられる蒼たち四人に言った。
 「彼は一応ここの長だ。親しみを込めて、ヴィー君と・・・」
 「呼ぶなっ!!そうだな・・・森の者は、ヴィレ、と呼んでいる。そう呼べ」
あくまで尊大な態度で、ヴィレはそう言った。
 「び?ビ・・・?」
 「ヴィ、レ、だ」
なかなかうまく呼ぶことができない碧に、ヴィレが細かく区切って教えた。
 「こう見えてなかなか面倒見がいいからねえ、ヴィー君は」
 「ヴィー君ではない!!」
再び声を荒げるヴィレを見て、蒼、紅、栄は顔を見合わせた。



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