黒い森の人々


黒い森の人々

 「今日はもう暗くなったな。・・・暗くなった森の地は厄介な奴らが蠢いている。泊まって行くといい。
 ついでに里でも見るか?変わった奴も多いから、身の安全は保障できんがな」
相変わらず人を上から見た態度でヴィレがそう言うと、フロウがさらに言った。
 「なら私がついて行こうか。過去に私に撃ち落された者も多いだろうから、
 君たちだけで行くよりは安全なはずだよ?」
 「・・・いちいち癇に障る言い方をするな・・・!大体貴様は」
 「はーい、そこまで!!じゃ、ヴィレ。俺ら里の見学させてもらうなー!!いこうぜ、フロウ」
 「・・・あ、ああ」
また額に青筋を浮かべて怒りを爆発させかけたヴィレを、栄が押しとどめる。
 「はいはい。・・・じゃあ、行こうか」
大弓を担ぎ先に歩くフロウに、碧と栄がついて出ていった。
 「・・・・・・貴様らは行かないのか」
後に残った蒼と紅に、ヴィレが問いかける。
 「んー?俺は色々疲れてるんでねぇ、ここでゆっくりさせてもらうわ」
 「ええ、私もゆっくり読書でもしたいですし」
肩をすくめて紅が言うのを聞いて、ヴィレが身を乗り出した。
 「・・・・・・何の本だ?」
 「おや、読書をされるのですか?・・・これは、古い伝承が数多く載っている本ですよ」
 「ああ、俺とて仮にも長だ。知識はいくらでも必要になる。古い伝承か。少し、俺にも見せてくれないか」
 「ええ、いいですよ」
趣味の一致で盛り上がり始めた紅とヴィレを横目に、蒼はその場で突っ伏して眠りに引き込まれていった。

 「すごーい!!薄暗いけど、きれい!!」
そのころ碧と栄、そしてフロウは月光森の中を見てまわっていた。
 「おおおー!!飛んでる〜!!」
栄が上空を見上げて言えば、碧も一緒に空を見上げる。
 「そんなに感動するようなものでもないけれどねえ・・・」
何度も来たことがあるし、とフロウは言った。
 「えー、だって、僕たちには絶対できないことだもん。ね、栄」
 「そうだなあ・・・できたらいいなって、思ったんだろ?碧は」
二人で顔を見合わせ、きらきらと目を輝かせて興奮しているらしい碧と栄をよそに、フロウは浮かない顔をしていた。
 「もう少し、光があれば私も楽しめるのだけどね」
どうやら明かりが足りないのが不満らしい。
 「・・・そろそろはずれの方になる。戻らないかい?」
はずれの方に向かうにつれて、明かりも少なくなってきている。段々濃くなっていく闇に、碧が身震いした。
 「う、うんっ!帰ろう!!」
碧がぎゅっとフロウの上着をつかんだのを見て、二人は苦笑してもと来た道を振り返った。




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