出発、そしてコケる


出発、そしてコケる

次の朝、蒼が全員いるのを確認して、ヴィレに問いかけた。
 「それじゃあ、行くぜ。・・・ヴィレ、もういいのか?」
 「ああ、留守は頼んできた。いつ行ってもいいぞ。目指すのは・・・ここから南の方だったか」
ヴィレがそう言って頷くのを見て、碧が元気に言った。
 「しゅっぱーつ!!」
そして五人から六人に騒がしい仲間が増えた道中、もちろん問題が起きる。
 「・・・・・・兄さん?」
 「おう、お前も気付いたか」
 「??」
辺りも暗くなり始めた頃、紅、蒼の会話に、碧が不思議そうな顔をする。
 「碧、私から離れないでくださいね」
紅が手招きして碧を呼び寄せると、フロウが無言で担いでいた背中の大弓をおろし、矢を構えた。
 「よーし、3・2・1でいいか?」
栄がぱしんと音をさせて拳を打ち付けると、ヴィレが瞬時に長く伸びた爪をひらりと閃かせ不敵に笑った。
 「構わんぞ」
栄がごほん、と咳払いをひとつ。
 「それでは。3っ!2っ!1っ!」
ざ、と飛び出した先にいたのは、人でもなく、はたまた獣でもなく。
 「でえっ、でかい虫!!」
蒼が思わず立ち止まると、栄も一歩下がった。
 「こ、これは俺の攻撃対象外だって!!」
接近、拳型の二人は直接触りたくないがために引き下がる。
 「ふん・・・このような奴ら、俺の敵ではない!」
ヴィレが素早く走りこんでくるくると舞うように切り裂けば、フロウがため息をつく。
 「やれやれ・・・あまり激しい運動はしたくないと思っていたのだけれどねえ・・・
 早速出番とは、敵ながらあっぱれかな」
言いながらも次々矢を射って岩のように巨大な芋虫を仕留めていく。
 「貴様、真面目にやらんかっ!」
ヴィレが怒鳴る。
 「ヴィー君、後ろ。・・・・・・私に構っている場合かい?」
その後ろから迫る甲虫であるらしい虫の柔らかい部分を狙い、
見事矢を命中させてフロウが笑った。
 「ヴィー君はやめろと・・・言っているのだ!!」
がっ、と爪を突き刺しながら負けじとヴィレもフロウに言い返す。
 「おーおー、やるねえお二人さん!!」
 「ガンバレー!!」
碧を狙ってくる虫たちに石や木片をぶつけながら、蒼と栄が野次を飛ばす。
 「・・・・・・あっちも狙われているのか・・・虫どもめ、キリがない!!フロウ、お前の血を貸せ!!」
 「仕方がないね。・・・ヴィレ!」
ばさりと音を立てて黒い羽を広げ、上空に舞い上がったヴィレに向けて、
フロウが矢の先で手を切り、流れた血を腕を振って飛ばした。
その赤い雫を、ヴィレが手で受け止める。ぐっと握り、なにやらぶつぶつと囁き始める。
 「・・・何をしようと?」
紅の言葉に、フロウが矢を放ちながら応えた。
 「魔術の詠唱さ。彼らは攻撃的な種族、攻撃に使える魔力も強い。・・・私たちは平和を愛する種族・・・
 戦いはあまり好まないのだよ」
見ててごらん、とフロウはちらりと後ろを振り返っていった。
 「・・・・・・滅すがいい!」
ヴィレがそう言って手を上にかざすと、深紅の矢が何本も飛び出し、巨大虫たちを襲った。
 「ふはははは!!このような下等な者ども、俺の敵ではないわ!!」
淡い光の矢を放つ手を上に掲げたまま、ヴィレが笑っていた。
 「・・・あんなこと言ってるけどねえ、誰か他の人の血がないと大技使えない上に昼は術が使えなくて、
 てんで役に立たないから」
矢を射っていた手を止めて大弓を担ぎ直しながらフロウが言うころには、
その場にいた虫たちはほぼ全滅していた。
ばさっとヴィレが降りてくると、開口一番こう言った。
 「・・・フロウ、貴様こやつらに妙なことを吹き込んでいなかったか?」
 「いやいや、何も」
そして、やっと瞑っていた目を開いて碧がこう言った。
 「・・・どうして、すいすいっと進めないのかな。いつもどこかでコケてる気がするんだけど、僕たち」
その言葉に、栄が肩をすくめた。
 「ま、そこはそこ、俺たちだからってことで」



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