目指すのは


目指すのは

 「なあ、南を目指すって言ってたけど・・・南には何があるんだ?」
栄が前を行く二人、フロウとヴィレに向かって言う。
日は木々でほどよく遮られ、ヴィレは気分が良さそうである。
 「南には人間の町がある。もっとも、奴らも我らを怖れ、外には出てきていないがな。
 貴様らの町よりは広い。情報も集まりやすかろう」
 「そうそう、そこには色々な店があるから、見て回るといいよ。ヴィレ、
 少し上から見えてこないか見てくれないかな」
 「・・・なぜ俺が貴様の言うことを・・・」
 「ヴィレ、飛ぶの?カッコいい!!」
 「ん?ああ、俺の羽は飾りではないからな、ちゃんと飛べる。
 ・・・なんなら抱えて飛んでやってもいいぞ」
 「え?いいの!?やったー!!」
カッコいい、が効いたのか、怒りも忘れやけに気前のいいヴィレに、碧が文字通り飛びついた。
大きくコウモリのような羽を広げて木々を追い越し、はるか上空へ舞い上がっていった。
 「・・・褒めると喜ぶからね、ヴィー君の扱い方として覚えておいた方がいいよ」
フロウが髪をかきあげながら言うと、残った三人は頷いた。
 「・・・・・・まだ先は長い。見えてはいるが、豆粒のようだぞ」
 「うーん、ヴィー君レベルで豆粒だと、私たちには多分全く見えないね」
ばさばさと羽を動かし、ゆっくり降り立ったヴィレの言葉に、フロウが腕組みをする。
 「そんなにすごいんですか、視力・・・」
紅が驚きとも呆れともつかない声を出す。
 「ヴィー君はやめろと言っているだろう。我らは空を飛びまわる種族。はるか上空から、
 地の様子を見ることができねば空は飛べぬ」
だから視力も良い、とヴィレは言った。
 「すごいんだよ!ビューンって、ヒューンって飛んでね!!」
 「そっか、良かったな、碧」
空の感動を伝えようと目を輝かせる碧の頭を、蒼がぽんぽんと撫でた。
 「・・・でもさ、とりあえず町に着いたとしてもさ・・・あんたら、目立つよな」
栄の言葉に、フロウ、ヴィレはきょとんとした。
 「・・・・・・まあ、私たちは限りなく人間に近いから、ごまかそうとすればできなくもないけど、ねえ?」
フロウがヴィレに言う。
 「ああ・・・我らのような人とは別の種族は、総じて紅い目をしている。
 どんなに外見が似ていようと、そこが決定的に違うのだ。まあ、あそこの人間どもに、
 そんなことを知っている人間が残っているかどうかという話ではあるな」
ヴィレがフロウの言わんとすることを引き継いで言った。
 「そうじゃないだろ。それ、それ」
 「ん?」
蒼の指す先には、ヴィレの黒くコウモリのような羽。
 「ああ、これか。これは・・・取れる」
ばちんと音をさせて、ヴィレが羽を取り外した。
 「取れるのかよ!!」
栄が思わず突っ込む。
 「もちろんだ。外せなければどうやって寝るのだ。寝返りもうてないぞ」
当たり前、とでも言わんばかりに、ヴィレはけろっとして言った。
 「魔力で動かしているのだ。たとえ外していても、呼べば来る可愛い奴だぞ」
 「ヴィー君、耳も隠してね。君らの種族は、人間とは違う部分が多いからねえ」
得意げに羽について語るヴィレに、フロウがそう釘を刺した。
 「よーし、じゃあ、南目指してがんばろー!!」
碧の声で、立ち止まっていた皆が再び歩き出した。



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