寄り道


寄り道

一行はそれまで進んでいた方向から大きくそれて、沼地へ向かった。
 「それにしてもよ、一体なにがあったんだろうな?」
蒼が頭の後ろで腕を組みながら言う。
 「さあね。・・・もしかしたら、何かが入り込んでしまったのかもしれないな」
 「入り込む?」
栄が不思議そうな声を出すと、ヴィレが言った。
 「虫の住みかは洞窟など暗い穴ぐらだ。獣の方も、乾いた大きな岩穴を住みかとしていることが多い。
 ・・・その穴の中に、異物が入り込んだら・・・」
 「大人しいひとたちなんだから、気味が悪いし、逃げるよね」
 「そういうことだ」
碧の相槌に、ヴィレが深く頷いた。
 「つまり、それを穴の中から追い出してしまえばいいってことさ」
前を歩き、草木をかきわけながらフロウが言った。
 「か、簡単に言うけどよ・・・何かって一体何なんだ?」
 「知るはずがあるまい」
蒼の不安げな言葉に、ヴィレが言い放った。
 「あー!?なんでわかんないんだよ!!」
 「そもそも、なぜ私たちが襲われるのかもわからないのだよ。もしかしたら・・・事は深刻かもしれないね」
薄く笑ってフロウが言った。その静かな声色に、沈黙が訪れる。
 「彼らに迷惑をかけたのが、人、もしくは人によく似た種族かもしれないということだよ」
完全に前を向いたフロウの表情は、後ろを歩く蒼たちには全くわからなかった。

 「ねー、まだ?」
 「まだだ。・・・疲れたのか、お前」
 「うん、ちょっとだけ。あとどれくらいで着くの?」
 「もう少しすれば見えてくるはずだが・・・」
疲れたと言う碧に、無愛想に言葉を返すヴィレ。
 「碧、疲れたんなら兄ちゃん背負おうか?いざって時走れねえと困るだろ」
 「大丈夫!!僕だって、頑張れるもん!」
蒼が碧を心配するが、碧はその心配を吹き飛ばすように元気な声を出した。
 「そっか。じゃ、あと少し頑張れよー」
その様子に、蒼も笑顔になる。
 「お!あれか?おーいフロウ、ここかー?」
栄が開けた場所を見て、前を歩くフロウに呼びかける。
 「ああ、ここだよ。・・・・・・何があるかわからないからね、気をつけるんだ」
フロウの言葉に、皆が一瞬息をのむ。
 「・・・俺が先に様子を見てくるか?」
 「いや、皆まとまって行ったほうがいいだろう。大体、ヴィー君はいつも一人で飛び出して失敗するんだから、
 輪を大事にしないと」
 「うるさいわ!」
その堅い雰囲気を消し去るような、フロウのひょうひょうとした声と、ヴィレの怒号。
 「はいはい、そこまでにしてください。・・・・・・お出迎えのようですから」
紅の言葉に耳を疑いつつも、皆が後ろを振り返った。
 「・・・・・・・・・マジ?」
蒼が呟いた視線の先には、前戦った数とは比べものにならないほどの。



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