奇跡の大脱出


奇跡の大脱出

 「お嬢さんって感じか!?あいつさっき、溶解液吐いてたぜ〜!?」
栄がばっと飛び、しなって襲い掛かってくる枝を避けつつ言った。時折避けきれない枝は、
不思議な力が働いてばしっと弾かれた。
 「なんにせよ・・・・・・決着をつけないといけないね!」
言いながらフロウが矢を三本続けざまに放つ。
 「どうする?あのように大量の枝を全て切り落とすのは容易なことではないぞ!」
縦横無尽に飛び回り、無数の枝の囮になりながらヴィレが言えば、紅が枝を巧みに退けながら叫んだ。
 「燃やしておしまいなさい!どうにかして・・・もう、こっちに近寄るんじゃありませんよ!」
 「ヴィレ!!どうにかなんねえか!?」
紅の言葉を受けて、蒼が叫ぶが、ヴィレは首を振った。
 「俺の術は闇の力、燃やすなど強く熱を放つ術は専門外だ!」
その時、一際大きくフロウが言った。
 「・・・私がなんとかしよう!すまないが、枝を私に近づけないでくれないか!」
その言葉に、一気に栄と蒼が活気を取り戻した。
 がってん!」
 「任せな!」
二人は枝を落とそうとする手を止め、それぞれ違う方向に走りこみ、枝をひきつけていく。
詠唱が始まる。フロウの長い髪がなびき、光が溢れ出した。
 「フロウ、大丈夫かな・・・」
碧が心配そうな声で言えば、ばさりと降り立ったヴィレが言った。
 「大丈夫だ。あいつはあれでも薔薇の里の長。長を名乗るものは、それなりに力がなければならぬからな。それに・・・」
ヴィレは碧の頭をぽんぽんと撫でながら、笑って言った。
 「あいつは結構、負けず嫌いだ」
その時、フロウが言葉を発することをやめ、静かに閉じていた目を開いた。紅い瞳の輝きが鋭くなる。
 「・・・・・・来たれ!光の眷属よ!」
光がいっそう眩しくその場に溢れかえった。

瞬間、戦慄するような断末魔がその場に響いた。
光の獣が放った無数の針に貫かれ、その傷口から炎は広がっていった。
もがき苦しむ度に地に叩きつけられる枝を避けながら、皆集まった。
 「ふふ、私もやればできるものだろう?」
いつもと変わらない笑顔でフロウが言う。
 「うんっ、フロウかっこいい!!」
碧がきらきらと目を輝かせてフロウを見上げた。
蒼が完全に黒く焦げ、動かなくなった木の化身を見、それから皆を振り返って言った。
 「よし、あとはずらかるだけ・・・」
その時、揺れが起きた。
 「な、ななな何だあ!?」
栄が必死に壁につかまりながら言う。
 「まさかとは思いますが・・・」
紅の顔がひきつる。
見ると、洞窟の天井からひゅるひゅると抜け出てきたものが見えた。
 「・・・あいつ、洞窟の天井にまで根を張っていたのか!いかん、崩れるぞ!!」
ヴィレが舌打ちして鋭く言ったのと同時に、上の岩が崩れ落ちる。
 「に、逃げろ!」
蒼がそういってさっさと走り出すのを追いかけて、一斉に走り出した。
 「どうして僕ら、いっつもこうなのー!?」
碧の叫びは、轟音にかき消された。



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