ちょっと休憩


ちょっと休憩

 「いやあー、化け物は倒したし、あいつらとは和解できたみてえだし、一件落着だな!」
沼地を抜けて、再び南を目指しながら、蒼がそう切り出した。
 「そうだねえ。彼らが糸を吐いていたのは、怒りではなくて歓迎だと思いたいね」
フロウがやれやれといった感じでついた糸を払いながら言う。
 「洞窟の一番奥の部屋、壊したの怒ってたのかもね・・・」
 「あれは我らのせいではあるまい。あの木の化け物が根を張っていたから、もろくなっていたのだ」
碧が心配そうに言えば、ヴィレがふんと鼻を鳴らし答える。
 「ごくろうさまでした。はい、お水」
 「おっ、サンキュー」
紅と栄はもはや先程あったことも忘れたかのようにしている。
 「よし、このまま一気に町を目指すぞ!すっかり遅くなっちまった」
蒼が言えば、ノリの良い四人は声を上げた。
 「おー!」
 「・・・・・・・・・」
その光景を、ノリの悪いヴィレが一人眺めていた。

歩けど歩けど、一向に森を抜けられない一行は、立ち止まった。
 「もう暗いし、今日はこの辺で休むか」
 「うん、そうしよう。僕もう眠いよ・・・」
蒼が言った言葉に碧がそう返したことで、この場所での野宿が決定した。
 「・・・それでは俺は、行ってくる」
ばさりと翼を広げ、ヴィレが飛び立った。
 「あいつも難儀だなー。毎日、動物を追っかけてるんだろ?」
 「仕方ないのではないかな。彼らはそういう種族だからね。なんなら、君たちが彼に血を与えるかい?」
木の枝を寄せ集め、火を起こしながら栄が言った言葉にフロウがそう応えると、四人は一斉に首を横に振った。
 「ははは。まあ、そうだろうね。痛いし。・・・それに彼は、一度人間の血は求めないと誓った。
 君たちがもし与えると言ったところで、彼は受け入れないだろうしね」
 「ここまで行くと、プライドなのか誓約を果たしているのか、わかりませんね」
 「あはははは、両方じゃないかな」
肩をすくめた紅の言葉に、フロウがいっそう楽しそうに笑った。
 「・・・・・・貴様ら、なんの話をしていたのだ?」
その時不意に上から声がかかった。羽を大きく動かして降りてくるヴィレの姿があった。
 「いや、ヴィー君は面白い人だねえという話をしていたのだよ」
それにフロウが答えると、ヴィレはふんと鼻を鳴らした。
 「・・・ずいぶんと盛り上がっていたようだな。喜んでおけばいいか?」
 「もちろんだとも」
そのフロウの笑顔から何を読み取ったのか、ヴィレはあっさりと引き下がった。
 「ヴィーレー!遊んで!」
後ろから声が聞こえたかと思うと、ヴィレの姿が火のそばに座っていた三人の視界から消えた。
 「どわあっ!!・・・・・・っ貴様、眠いと言っていただろう!」
どうやら碧に飛びつかれて、倒れこんだらしい。
 「ご飯食べてたら眠くなくなったの。ねー、だから遊ぼ!」
 「そうだねえ、ヴィレは今一番元気だから、遊んでもらうといいよ」
 「貴様、フロウ!!」
にっこりとこの上なく楽しそうに碧に言葉をかけるフロウに、ヴィレが叫んだ。
 「よかったですね、碧」
紅もにこりと笑って言う。
 「く、くくく・・・では、追いかけっこだ。・・・俺が追いかける!この!!」
 「きゃー!!」
大人気なくヴィレが飛び回り始めると、碧がきゃあきゃあと歓声を上げながら走り回った。
 「はははは・・・」
その光景を見て、フロウがまた楽しげに笑った。



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