ついに抜け出して、そしてまた止まって


ついに抜け出して、そしてまた止まって

 「せぇーの、」
 「ほいっ!っと」
一列に並んで、一斉に一歩踏み出す。
踏み出した先は、森の外。広大な草原が広がっている。
ちょっとした「国境越え」気分を味わっていたのである。
 「やったあ!ついに森を抜けたよー!!」
碧が歓声を上げる。
 「ようーし、このまま一気に町を目指そうぜ!!」
栄もやる気みなぎる声を出した。
 「俺は上に行ってどれくらいか見てこよう」
ヴィレがそういうと同時に羽を広げ、舞い上がって行った。
 「さ、時間を無駄には出来ないよ。ちょっとくらい離れても彼なら見つけられるから、先に歩いていよう」
フロウがそう言って先頭を歩き出したのに続いて、皆歩き出した。
 「ね、ね、フロウ。他の人が住んでる町って、どんなところ?」
碧がフロウの上着の端をくいくいと引っ張りながら聞くと、フロウはにっこりと答えた。
 「そうだねえ・・・一言で言うなら、静かなところ、かな。けれど色々なものがあって、私は結構好きだよ?」
フロウの好評価に、碧の目が輝いた。
 「へえ〜・・・!!早く行ってみたいな!」
その時、上から羽ばたく音が聞こえた。
 「・・・森を抜けたとはいえ、まだまだだな。かなり歩くことになりそうだ」
だが、と言って、彼は先を続ける。
 「もうそろそろ貴様らにも見える頃だ。・・・あちらの方角に、見えないか」
そう言ってヴィレが白く長い指で指差した先に、何か塊のような影が見えた。
 「ん〜・・・もしかして、あの黒い影というか、塊みたいなものですか?」
紅が目を凝らして一点を見つめながら、そう言った。
 「俺にははっきり見えるが、貴様らではそのくらいだろう。それだ」
 「でもまあ、見えるのと見えねえのとでは大違いだ。よし、頑張ろうぜ!」
蒼の言葉に、皆頷いた。

 「だ、だいぶ近づいたような気はするけど・・・」
 「そろそろ、休もうぜ・・・俺、もうだめ〜」
碧と栄が休もう休もうと騒ぐ。影は大きさを増し、近くなっているという実感が感じられた。
 「あーもう、わかったよ。今日はここらで止まって、ゆっくり休もう。何があるかわかんねえから、火だけは絶やすなよ」
蒼が言って荷物を置いたのを見て、皆野営の準備を始めた。
 「はー、私も今日は疲れたね。この辺には華やかな花もないし、私にはつまらないところだよ」
座りながら、どこからか取り出した薔薇を枯らしていく。
 「・・・どこから出したんだよ、それ」
栄が突っ込む。
 「まあそれは、私だからどこからでもということに」
 「・・・見張りは俺がやろう。貴様らはさっさと休め」
二人の不毛なやりとりに割り込むようにして、ヴィレが言った。
 「ああ・・・けどよ、毎晩毎晩、いいのか?」
蒼の言葉に、ヴィレは頷いた。
 「元々我らは夜活動する。心配されるものではない、本来これが普通だ」
そう言って木に寄り掛かるヴィレに、紅が笑った。
 「ご苦労様。それじゃあ、休ませてもらいます」
 「ああ」
照れたのか、そっぽをむいてしまったヴィレに、ますます紅が笑った。



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