町の中で


町の中で

 「・・・とりあえず、情報が欲しいな。ここはどんなところなんだ?」
蒼が切り出すと、フロウがそれに答えた。
 「この町は君たちの暮らしていた町と、ほとんど変わりはないよ。ただ、君たち以上に私たち異種族への警戒が強い。
 ばれたら一発、追い出されるねえ」
それに続けてヴィレも言う。
 「・・・ああ、ここの人間はそんな感じだ。俺も、この町の中ではさすがに猫をかぶるほどだ」
 「それは、そうとう警戒心が強いなあ」
 「どういう意味だ」
栄とヴィレがにらみ合いを始めた横で、話は進んでいく。
 「でも、普通にしてればいいんでしょ?僕たち、そんなにここに長くいるつもりもないわけだし」
 「まあそうですけどね。用心するに越したことはないってことですよ」
 「俺たちが欲しいのは情報だ。・・・それさえ得られれば、ここに長く留まる必要は、確かにねえよ。
 けどやっぱり、楽しい方がいいだろ?なら、問題は起こさねえに越したことはないのさ」
にやっと口の端を持ち上げて、蒼が言った。
 「じゃあ、とりあえず町の人に話を聞こう。・・・適当に気ままな旅人の振りでもしておけば、大丈夫だろう。
 しばらくしたら、またここに集まろうじゃないか」
フロウの言葉で、皆は町の中に散って行った。

 「お、もうみんないたのか〜」
栄が細い路地に足を踏み入れた時には、もう全員集まっていた。
 「遅いぞ、栄」
 「ごめんごめん。つい店のおっちゃんと話が盛り上がっちゃって」
頭をかきながら言う栄をちらっと見て、ヴィレが言った。
 「今日のところはこんなものだろう。適当に宿でもとって、情報を整理する必要があるな」
その言葉に皆頷き、この町にひとまず留まることになった。

 「俺はさ、この辺ででっかい組織とかってあるかなあって、聞いたんだ。そしたら、果物屋のおっちゃんが、
 『黒い服を着たナントカって奴らがいっぱいいる町があるぜ』って言うから、その『ナントカ』を
 思い出してもらいながら、他の話も聞いてきた」
宿に落ち着き、皆がテーブルを囲むように座ってから、栄がまず口を開いた。
 「どうやら、何か偉い奴がいてさ、そいつの組織らしいんだ。誰か、までは判らなかったんだけどな。
 ・・・それにしても、そこのおっちゃんが面白くてさー!」
 「はい、次ー」
脱線しかけた栄の話を遮って、蒼が話を進める。
 「・・・俺らはここのほかにも町があるのか聞いてきた。どうやら、ここからさらに南の方角に、
 また違った町があるらしい。話を聞く限りでは、そこはかなりでかいらしいな」
 「ヴィレの猫かぶりは、すごかったよ・・・」
ヴィレの報告に加えて、ぐったりした碧が力なく言った。
 「私は、今話題の人物の情報を聞き出したよ。・・・どうやら、そのヴィレが聞いてきた町らしいのだが、
 とてもいい政治をしている統治者がいるらしいね。人が群がりすぎて、名前まで聞く余裕はなかったのだが・・・
 その人物が裏でその組織を操っているかもしれないね」
フロウが髪をかきあげながら言った。
 「私はここ最近の出来事の話を聞きましたよ。・・・どうやらあの方たち、もうここまで来ていたようです。
 『4人組』で私たちのことを探していたようですね。・・・良かったですよね、フロウとヴィレが入ってくれて」
紅がため息混じりに報告した。
 「・・・今までの話の結論からすると・・・つまり、次の目的地はその町だってことか」
蒼が締めくくると、五人の視線が一気に蒼に集中した。
 「ん?」
 「兄さん・・・兄さんも、何か聞いてきましたよね?」
 「まさか、聞いてこなかったなんてこと・・・ないよね?」
弟二人が詰め寄る。
 「いやあ、そんなことはねえよ?ほら、早く寝ないと、明日さっさと出発するぞ!」
 「ごまかしたっ!」
 「蒼、正直に言いなさい!本当は自分ひとりだけ楽をしようと!」
 「俺を働かせておいて、いい度胸だな!!」
栄、フロウ、ヴィレの声に、明らかに怒っている女性の声が重なった。
 「お静かにお願いします!!」
 「すみません!!」
宿の女主人に皆一斉に謝って、その場はお開きになった。



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