俺の気持ち


俺の気持ち

 「どうした、栄。・・・お前、朝から元気ないぞ」
蒼と並んではっちゃけ太郎次郎の異名を持つ栄の元気がないのを心配して、蒼が声をかけた。
一行は早々に肩透かしを食らった町を飛び出して、野営の準備に取り掛かっていた。
 「ん・・・?そんなこと、ないけど・・・」
いつもなら人の目を見て話をする栄がいつまでたっても顔を上げないのを見て、蒼が真剣な顔つきになった。
 「お前、ホントは帰りたくないんじゃねえか?」
 「!」
唐突な問いに、栄が勢いよく顔を上げた。
 「そうじゃない・・・とは、言い切れない。けど、ここまで来ちまった。お前らといるの、すげー楽しいよ。でも、やっぱり俺は向こうの人間で・・・
 って、考えるとさ。帰らなきゃなんないだろ?」
それから目をそらして、気まずそうに呟くように言った。
 「それにさ、みんな俺のせいで動いてるんだし・・・。ここまで来ておいて、駄々こねるわけにはいかないだろ」
 「お前のせいじゃないさ」
蒼は栄の隣に座り込み、明るい口調で言った。
 「みんな、自分がそうしたいから動いてるだけだ。お前のせいでみんなが迷惑とか、そういうことじゃないだろ。俺は俺のために動いてんの。
 そのついでにお前の役に立ってんなら万々歳ってことよ。俺は楽しい、お前には好都合。一件落着、だろ?」
 「う、うん・・・」
その勢いに押されるように、栄が相槌を打つ。
 「・・・でもな、無理することはないさ。お前が嫌だってんなら、今からでも帰りゃあいい。誰も文句は言わねえし、言わせねえ」
みんな自分のために動いてるからな、と蒼は言った。
その言葉がどこかに響いたのか、栄は笑って言った。
 「へへへ、ありがとな、蒼。・・・でも、やっぱ俺帰るわ」
そのすっきりとした笑顔につられるように笑いながら、蒼が言った。
 「そっか。お前がそう決めたんなら、俺はもう何も言わねえよ」

その夜、栄の傍に碧が寄って来た。
 「栄ー、だいじょぶ?元気なかったじゃない」
 「ん?大丈夫大丈夫ー。俺、元気っ子だから」
けらけらと笑う栄を見て、碧もにっこり笑った。
 「よかったー。栄しゃべんないと僕つまんないもん。んじゃ、明日からまた元気だしてよね!」
おやすみー、と言いながら走り去った碧の後ろ姿を見送り、栄はぽつりと呟いた。
 「・・・だって、仕方ないじゃんか。俺は・・・」



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