一難去ってまた一難、それからさらにまた一難
一難去ってまた一難、それからさらにまた一難
「で?結局こういうことになるわけねー」
向かってくる黒マントを足払いで倒し、蒼が言う。
「そーゆーこと。ま、それだけ近いってことじゃん?」
栄は飛び蹴りを食らわせながら答えた。
「まあそうだねえ。・・・おや、そっちは進入禁止だよ」
碧と紅の方に抜けようとした者を、フロウが矢を射って止める。
「・・・貴様ら。もう少し緊張感というものをもてないのか?」
そう言うヴィレも、爪を閃かせながらなんだかんだで会話に参加してくる。
「紅は絶対働かすなよー!後が大変だからな」
蒼が皆に呼びかける。
「おう!!」
それに四人が応えた。
「どういう意味です、兄さん」
一人、紅だけがむっとした。
「ふー、肉体労働後の水はうまいなー」
栄が座り込んで水を飲みながら言う。
「全く・・・こう頻繁に襲われては、おちおち眠れもしませんね」
紅がため息混じりに言った。
「そうだな・・・何とか、こう・・・やつらが近づけない方法とかないのか?フロウ」
「ん?・・・そうだねえ、私が知る限りではそのような方法はないが・・・ヴィー君、知らないかい?」
「ヴィー君はやめろ。・・・俺も知らん。あやつらは秘術中の秘術で作られているからな、詳しいことはわからん」
蒼の問いかけに、フロウ、ヴィレともに首を横に振った。
「そっかー・・・。僕、あの人たちなんか怖いよ。おばけみたいな感じがしてさ」
碧がぶるっと身震いして言う。
「似たようなものなのだ、仕方あるまい。・・・だが、慣れなければならぬぞ。これから先、あやつらはさらに数を増してくるに違いない」
ヴィレの厳しい言葉に、皆真剣な顔で頷いた。
翌日。
「おい、貴様ら起きろ!・・・前方に黒い集団が見える!」
ヴィレの言葉に、まず蒼が飛び起きた。
「ま、マジで!?・・・おい栄!何寝こけてんだ!!さっさと・・・起きろ!」
がつん、と頭を殴るが、栄は少し身じろぎしただけで、一向に起きる気配がない。
「ん〜・・・いい朝だ・・・」
「フロウ、寝ぼけないで下さい」
フロウが起きぬけで妙なことを口走るのに、目覚めすっきりの紅が突っ込む。
「仕方ねえ、栄抜きで行くしかねえか・・・フロウ、碧と栄を頼んだぞ!紅!お前今日は働いてくれ!」
蒼の采配に、皆頷いた。
「ええ、わかりました。・・・止めてくださいね、兄さん」
紅の瞳に物騒な光が宿ったのを見て、フロウとヴィレは顔を引きつらせながら互いを見合った。
「こ、これは・・・」
「すごいねえ」
「紅兄さん、強―い」
ヴィレ、フロウ、碧がそれぞれ言う。
その三対の視線の先には。
「ふ、ふふ・・・あははははは!!私の前に立ちはだかろうとは、いい度胸です!!」
普段の穏やかな雰囲気を消し去り、好戦的な瞳で文字通りばたばたと黒マントたちをなぎ倒す、紅の姿があった。
舞うような動きからは想像もつかないほどの力で殴っているのだろう、敵がもろに吹っ飛ぶ。
「うわっ!・・・危ねえな、紅!!こっちに飛ばすんじゃ・・・どわっ!!」
蒼の注意もものともせず、文字通り敵を吹き飛ばしている。
避難避難、と言いながら下がってきた蒼が、言った。
「さて、問題はあいつをどう止めるかだ。・・・もうそろそろ止めないと、こっち来るぞ」
高見の見物をしていた三人の顔が、一気に青ざめた。
栄の穏やかな寝息が、喧騒の中静かに繰り返されていた。