その名は


その名は

 「サリ・・・」
栄が呆然と呟く。
サリ、と呼ばれたその男は、そんな栄を見て、ふっと笑顔を見せただけだった。
その様子を見ていたフロウの様子が、どこかおかしいのを見て、ヴィレが声をかけた。
 「おい、お前・・・」
その時、その男が再び口を開いた。
 「フロウ、・・・・・・元気そうだね」
 「な・・・やはり、君は・・・」
滅多に笑顔を崩さないフロウの目が、見開かれる。
 「・・・僕は・・・栄にはサリ、と名乗ったけど。サリエラ・ヴィース。
 ・・・栄と暮らしてたこともあった、フロウの知り合いだよ」
急展開に唖然としていた紅と蒼を真っ直ぐ見つめ、言ったその瞳は紅い色をしていた。

 「サリエラ・・・?サリ・・・本当の名前も俺には言ってくれなかったのかよ」
栄が俯く。
 「ごめん。僕はあの時、追われてたんだ。だから本当の名前を言うわけにはいかなかったんだよ」
栄の肩に軽く手を置いて、サリエラが言う。
 「・・・栄、どうしてここに来たの?こっちの世界に・・・」
静かで柔らかな声は、しんとしている遺跡を包み込むようだった。
 「・・・俺、なんか変な黒マントの奴らに追われてる途中、偶然こっちに来たんだ」
しぶしぶながらも、俯いたままで栄は言った。
 「そうか・・・そちらの世界にまで、彼らが来ていたのか・・・」
ぶつぶつと呟くサリエラに、蒼が言った。
 「なあ、サリエラ・・・だっけか。あんた、何でこんなところに・・・」
蒼の言葉を遮るように、サリエラは言った。
 「それは、上にいってからにしよう。・・・たぶん、もう出ても大丈夫だと思うから。・・・ヴィレさん、先どうぞ」
 「あ、ああ」
何をそんなに警戒しているのか。それを聞くことは、出来なかった。
サリエラの笑顔が、それを聞くなと言っている気がした。

 「・・・皆様、ご無事で」
 「おかえりー」
来た道を戻り遺跡の外に出ると、白銀と碧が出迎えた。
 「おう、碧いい子にしてたか〜」
 「兄さん!!僕、もう七歳だよ!?」
蒼の言葉に、碧が頬を膨らませた。
 「まあ、兄さんも碧もそのくらいにして。サリエラさんが困っていますから」
そう言いながら自分が一番困った顔をしている紅を見て、サリエラが笑った。
 「サリエラでいいよ。なんなら、サリでも構わないし。・・・僕の話を聞きたいんでしょう?なら、早い方がいい。
 おそらく・・・彼らはすぐそこまで迫っている」
 「彼ら・・・?」
サリエラの含みのある言葉に、ヴィレが眉をしかめた。
 「そう、彼ら。・・・君たちの家を壊して、ここまで追い詰めてきた奴らだ」
続けて言った言葉に、白銀が僅かに目を見開いた。
 「なぜ、それを・・・」
サリエラは、それに対して笑顔を見せただけだった。



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