「扉?」
紅が怪訝そうな顔をした。
 「そう、『扉』・・・異界への門を開く」
サリエラが静かに言うと、蒼が反応した。
 「異界・・・って、栄のところか!?」
 「あらゆる世界へ。・・・なにも世界は二つだけじゃない。どんなに小さくても、世界はいろいろあるんだ」
 「しかし、あらゆる世界ならば当然、栄の世界も含まれるということだな」
ヴィレの言葉に、サリエラは頷いた。
 「そう、つまり栄の世界への扉を開けば、栄は簡単に帰ることが出来るよ。
 ・・・ただし、扉を開くことが出来るのは、一度だけ。一度開いてしまったら、しばらく開くことはできないね」
チャンスは一度。今回を逃したら、次はいつになるか。
そういうサリエラの声は、あくまで穏やか。
 「・・・なあ、あんたはこれからどうするんだ?ずっとここにでもいる気か?」
蒼が聞くと、サリエラは言った。
 「そうだね・・・ここにはもういられないから、適当に姿をくらますよ。もしかしたら、また・・・会えるかもしれないね」
 「サリ・・・」
 「栄、僕は一緒にはいけないよ?」
 「・・・・・・」
サリエラに声をかけた栄の意図を読んで、サリエラがそう返すと、栄は黙り込んだ。
 「それじゃあ、私たちはそろそろ。サリエラさんも、元気で」
紅がそう言うと、サリエラは笑った。
 「うん、皆さんも元気で。栄・・・しっかりね。たとえ、何があっても・・・」
 「え?」
栄が顔を上げる頃には、サリエラはもう後ろを向いて歩き出していた。
 「栄、行こうか」
フロウの言葉で、やっと栄も皆について歩き出した。

 「ふー。それにしても・・・扉、か・・・」
蒼が何気なく言った。
 「ええ、栄、良かったですね。あなたの世界に帰れるようですよ?」
その言葉を受けて、紅が後ろに座る栄に話しかけた。
一行は車に乗り込み、一路東を目指した。
東の町にはこれまた名前も何もないが、それでもかなり規模の大きな町らしいことははっきりしている。
 「んー、ここまで長かったなあ・・・ちょっと寂しいけど、な」
栄が微妙な面持ちで言うと、栄の隣に座る碧が後ろを振り返った。
 「そういえばさ、フロウとヴィレは、大丈夫なの?こんなに長い間離れてて・・・」
 「ん?・・・ああ、まあ、大丈夫だ」
 「私も・・・きちんと手は打ってあるからね、心配いらないよ」
二人とも頷いたのを見て、碧が笑顔になった。
 「それにしても、やっと大体の話が繋がったような気がしますね。
 あとは、扉をどうにかして開ければ、栄は帰れるんですね」
紅もすっきりしたような顔をしている。
 「そうだねえ。まあ、焦らないことだよ。焦ったところで、いい事はないからね」
フロウがうんうん頷いて言った。
 「・・・飛ばします。シートベルトのご確認を」
不意に白銀が静かにそう言ったのを聞いて、三人ががちゃがちゃと急いでシートベルトを締め始めた。
 「ん?ど、どうしたんだよ三人とも」
栄が不思議そうな声を出しながらも、つられるようにシートベルトを締める。
 「馬鹿、急げ!白銀が飛ばすって言ったらすげえぞ」
蒼の今までに2回くらいしか見たこともないような真剣な顔を見て、フロウとヴィレも急いでシートベルトを締めた。
 「・・・白銀が飛ばすと、何故か舌を噛みそうになるんですよね・・・」
 「がたがたがたーって、するんだよ。ねっ」
紅と碧がそう言い終わると同時に、ぐんっと速度を上げた車は、砂煙を上げて直進して行った。



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