そろそろ着かないと


そろそろ着かないと

空は快晴。上を見ればどこまでも空の色ばかりが続く草原を、一台の黒い車が飛ばしてゆく。
 「しーろーがーねー!!ちょっと、飛ばしすぎじゃねえのー!?」
栄が文句を言うが、白銀は答えない。
 「あー駄目駄目。今話しかけても白銀答えないぜ」
 「運転は集中力の勝負ですからね」
 「・・・俺の知らない間に運転って勝負になったのかよ」
代わりに返ってきた蒼と紅の言葉に、栄はがっくりと肩を落とした。
 「まあねえ。でもいい加減、帰らないとまずいのだから。大騒ぎになってたりしてねえ」
 「少年が謎の失踪、とかな」
フロウとヴィレがそろって茶化したので、栄は面白くないというような顔をした。
 「なんだよー!」
 「栄ー、僕つまんないー」
碧がくいくいと栄の服の裾を引く。
 「うーん、つまんないって言われてもなあ・・・」
そちらに意識を取られ、考え込む仕草をする栄の視界が、不意に暗くなった。
 「くまさんパーンチ!」
 「ぶっ!・・・・・・碧〜っ!?」
 「あははははっ!スキありー!」
 「なにをー!うりゃ!」
 「あーぼさぼさー!!もー!」
そのまま髪ぐしゃぐしゃ合戦に移行していく二人の様子を見て、ヴィレが大きく息を吐いた。
 「・・・こいつは集中とは無縁だな」
後部座席で暴れだした二人からの被害を減らそうと端に寄っている紅も、ため息をついた。
 「全く、座席換えを要求しますよ」

 「しっかし、なかなか見えないな。そろそろ着かねえと、いい加減飽きちまうっつーの」
蒼が頭の後ろで手を組んだ体勢で、ゆらゆらする。
 「あ、・・・もしかして、前に見えてるの、町じゃありませんか?」
 「え!?うそっ、どこだよ紅!」
紅の言葉に、栄が身を乗り出す。それと一緒に碧も前を見つめる。
 「ああ、そうだな。町だ。この分なら、もうすぐ着くな」
視力抜群、ヴィレのお墨付きももらって、車内が一気に明るい雰囲気になった。
 「・・・でもさ、そうすると栄とはお別れなんだよね・・・」
碧がぽつりと呟いた。栄も切なげに眉をひそめて、碧を見た。
 「うん、俺だって寂しいけど。・・・俺、ここの人間じゃないからさ、仕方ないんだ」
フロウも珍しく真剣な声で言う。
 「そうだね。・・・まあ、二度と会えないと決まったわけじゃないんだから、悲観することもないだろう。
 それにね、たとえ会えなくとも、私たちはずっと仲間だと思うけれどね」
大仰な仕草で、しかし口調は極めて真剣に紡がれたその言葉に、皆が頷いた。
 「そう、だよね。うん、僕たちずっと仲間だよね!栄!」
 「もちろんだって。きっと、また会えるって俺は信じる!」
ぐっと手を握り締めて、栄が碧に答える。
 「仲間であり、・・・もうお前は俺らの家族みたいなもんだぜ。な、紅」
 「・・・そうですね。部屋も余ってますし、あなたがもしまたこちらに来たときには、
 寝るところだっていくらでもありますから」
蒼と紅が笑みを浮かべて栄を見やった。
 「全く、そろいもそろって暑苦しい奴らばかりだな」
 「・・・お嫌いでございますか、このような雰囲気は・・・」
 「・・・・・・・・・ふん、まあ嫌いではないが、な」
 「私も・・・皆様のこのようなところを好いております」
文句を言いつつもまんざらでもないらしいヴィレに、白銀が穏やかに言う。
 「・・・いよいよ、到着だな」
蒼が前を見据えてそう言うと、皆前を向いた。
 「んー、外の空気はうまいねぇ〜」
栄がおどけて言いながら伸びをすると、碧もその隣で大きく伸びをした。
 「ねぇ〜」
 「さてと、そんじゃまあ、まず入るとするか!今日のところは宿をとって、英気を養おうぜ」
蒼の言葉に皆頷いて、歩き出した。



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