いつになったら晩御飯?


いつになったら晩御飯?

 「だああっ!何だよこの数の多さは!!」
黒装束の人形を蹴倒しながら、栄が喚いた。
 「本当に、その通りでございますね・・・」
白銀が相手の攻撃を軽くいなしながら応える。
『これ終わったら飯』と栄は言ったが、果たして夕食にありつけるかどうか。
 「参ったね、矢が尽きそうだよ?」
 「自分で何とかしろ」
 「やれやれ、ヴィー君は冷たいねえ」
 「うるさい、集中しろ」
ヴィレが黒マントを屠りながら冷たく言い放った。
その背後を狙って飛びかかる一体を蒼が殴り倒す。
 「さっすが本拠地」
 「感心するところじゃないよー」
 「碧の言うとおりですよ兄さん。こちらの身が持ちません。
 あちらは使い捨てでしょうけど、僕らはそういうわけにはいかないんですからね」
紅がため息混じりに言う。
確かにこのまま攻撃が止まなければ、やがてこちらの体力が尽きて最悪の結果となる。
それは何としても避けたい。
 「みんな、がんばってー!」
碧が不安げな顔で叫ぶ。紅は碧の両肩に手を乗せて言った。
 「大丈夫ですよ、碧。今までもずっと負けなかったでしょう?・・・だから、信じましょう?」
 「・・・うん」
碧が頷くのを見て、紅は碧の頭を撫でた。
さっきの台詞は、自分に向けての言葉でもあった。不安はある。けれど、大丈夫。信じている。

 「・・・・・・確かに、これだけ大勢に歓迎を受けるのは初めてかもしれないね」
フロウが矢を放ちながら、呟く。ヴィレに背中を預けながら、弓を構えて敵を見据えた。
 「こういう風に包囲されるのは、嫌いなのだけれどね?」
 「珍しいな、俺も同感だ」
ヴィレが振り向かずに応える。知らぬ間に、蒼達よりも突出していたらしい。
黒い人波の中に呑まれてしまっていた。
 「参ったねえ。実を言うと、矢の残りはこれで最後なのだよ」
 「・・・俺はどこからあれだけ大量の矢が出ていたかの方が知りたいが」
 「わが種族の七不思議のひとつさ」
 「冗談も休み休み言え」
 「おや、私は冗談など言わないよ?」
 「うるさい、来るぞ!」
ヴィレがフロウの襟首を引っ掴んだ。そのまま空中へ逃れる。
 「ははははは!ヴィー君が空を飛ばせてくれるとはねぇ」
フロウが矢を放ちながら笑う。
 「うるさい、不可抗力だ!」
ヴィレが喚く。見渡す限り、道路という道路は黒い人波に埋め尽くされている。
逃げようにも、これではどうにもならない。
 「参ったね。どうにも時間稼ぎをされているような気さえするよ」
やれやれ、とフロウが肩をすくめる。
 「おーい、フロウ!ヴィレ!無事かー?」
蒼の声が遠くから聞こえる。
そちらの方に目を向ければ、じりじりと追い詰められつつある人間組の姿が小さく見えた。
 「何とかね。そちらもどうやら無事らしいね」
 「ああ!はぐれてんじゃねーよ!」
 「はは、すまないね。どうやら街中が黒マントだらけになっているようだよ。逃げ道はなさそうだ」
げ、と栄が顔を歪める。紅が『やれやれ』といった風に緩く首を振った。
 「ぼくたち、どうなっちゃうのー?」
 「さあね、これのご主人様でも探してみるかい?」
 「うえ〜、めんどい」
 「言うと思いましたよ」
蒼に冷たく応じてから、紅がフロウたちの方に向き直った。
 「逃げ道はない、黒マントは五万といる、こちらの体力はいつ尽きるやら。
 さて、どうしましょうかね・・・?」
冗談めかして言う紅の目は、笑っていなかった。



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