銀色の影


銀色の影

わらわらと迫り来る黒マントたち。これだけの大群を少人数で抑えるのに、じわじわと限界が見え始めていた。
 「ちょーっと、ヤバいんじゃないの?」
そう言う栄の表情は、常に無く堅い。
 「全くだ、こりゃあ・・・ちょっと、どうするよ?」
蒼が言い、後ろを振り向く。
 「・・・って、ありゃあ?」
蒼の間抜けな声に、栄がずっこける。
 「ど、どうしたんだよ〜、蒼!!気ぃ抜けるだろーっ!?」
 「兄さん?」
紅も碧としっかりと手を繋いだまま聞き返す。
 「し・・・白銀が、居なくねえか?」
 「ええっ!!しろがねさあーんっ!!」
碧が大慌てで叫ぶ。
返事は、返ってこない。
 「白銀・・・それらしい姿は見えませんね・・・一体、どこへ・・・?」
どこへ行ってしまったのかはわからない。だが、これだけは確かにいえる。
 「心配ねえさ。だって、白銀だからな」
白銀は、大丈夫。
皆が同じ気持ちで頷き合った時、頭上から声がした。
 「失礼致します、皆様」
次の瞬間、建物の窓から影が飛び出したかと思うと、どっと黒マントが一気に三体倒れる。
建物から降ってきた影。
 「し、白銀〜!!びっくりさせないでくれよ〜!!」
 「申し訳ございません。・・・少々、手間取りましたが・・・辺りの様子を探っていたもので」
確かに、辺りを窺うには高いところから見渡すしかないのだが。
 「・・・住人は皆、眠っているのか気絶しているのか、とにかく意識がありません。
 しかし襲われる様子は無いので、放っておいても平気かと」
白銀の報告に、蒼がにっと笑った。
 「そうか。よーし、なら、やりやすいな!!っと!!」
痺れを切らして迫ってきた黒マントを、蒼が殴り倒す。
 「・・・っ!!」
向かってくる黒マントに反応が遅れた紅が、息を飲む。
が、黒マントは目前でどっと倒れ伏した。
 「・・・・・・ご無事で」
白銀の投げた長く太い針が、深々と突き刺さっていた。
 「ええ・・・すみませんね、気をつけます」
紅が頷いたのを見て取ると、白銀は黒い波の中に消えた。
白銀はどこで覚えたのか、針や刃を飛ばす術を知っている。
その技は滅多に外すことは無く、達人の領域。
身も軽く、体術の心得もあるようだ。
敵を撹乱する様は、さながら銀色の影。
気づけば方々で黒マントの倒れる音がする。
 「全く・・・頼もしいというべきか、無茶をするなと言うべきか・・・ですね」
ふうっとため息をつきながら、紅は苦笑した。



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