外出禁止令


外出禁止令

 「・・・・・・やっぱり奴ら、栄を探してるぜ。うー、冷てぇ〜」
館に走りこんできた蒼が、着くなりそう言った。
 「はい兄さん、タオル。・・・どういうことです?」
タオルを持って蒼を出迎えた紅がタオルを渡しながら聞き返した。
外は雨が降っていた。これからますます強くなりそうな空の暗さだった。
 「・・・俺、話しかけられたんだよ。『見ない顔の奴が突然現れなかったか』ってな。知らねえって言っといたけどよ、
 男とも女ともつかねえ、つーか人間の声とは思えねえ変な声してやがるんだ。気味悪りぃったらないぜ」
 「・・・栄、なんで追われてるんだろうね?」
紅の隣で大人しくしていた碧が口を開いた。
 「俺だって知らないって。・・・それさえわかれば対処のしようもあるとは思うんだけど・・・」
更にその隣で、栄が頭を抱えた。
 「・・・まずは、お着替えください。話はそれからということに」
遅れて出てきた白銀が、静かに言った。

 「あいつら、栄を見つけてどうする気かはわかんねえよ。けど、いいことは起きないと思う、それは確かだ」
場所を移し、いつも話し合うときはそうしているように書斎に集まった。
蒼がイライラしたような口調で、気に食わねぇ、と呟いた。
 「それでは、そうなんでしょうね。兄さんの勘というか、感覚は馬鹿にはできませんからね」
紅茶とともに出された菓子に手を出しながら、紅が軽く肩をすくめた。
 「・・・それはさ、馬鹿にしてんのか?」
 「褒めていますとも」
見合っている蒼と紅を見なかったことにして、栄が口を開く。
 「・・・俺の持ち物に何かあったとか、かな・・・。いや、まさかな。そんなに大事なもんカバンには入れてなかった・・・し?あ、あれ?」
栄が語尾を変に切った。こんな言い方をするときは、大体ロクなことにならないことを四人は知っていた。
 「おいおいおい、勘弁してくれよー!」
蒼が頭を抱えて突っ伏した。
 「なんでそう、物を忘れやすいんです!?こっちはたまったもんじゃありませんよ!!」
紅が鋭く言う。
 「ご、ゴメンゴメン!!今回は建設的だって!・・・今さ、俺が持っているものってなんだ?」
 「・・・何もないよね?だって、落ちてきたときも何も持っていなかったもの」
栄の問いかけに、碧が答えた。
 「そう、そうなんだよ。カバンは途中で落としてきちまったから・・・。でもな、俺、今ひとつだけ持ってるものがあるんだ」
そういうと、栄は胸元から何かを引っ張り出した。
 「・・・・・・ペンダントでございますか?」
今まで黙っていた白銀が不意に口を開いた。
 「そ、ペンダント。でも、ただのペンダントじゃない。俺の大事な人がくれたんだ」
そのペンダントは、皮の紐に加工された黒い石が下がっているだけの質素なものだった。黒い石は日に透かすと透き通っていて、中に何かが見えた。
 「なんていう石かは知らない。けど、綺麗だろ?中に小さくて綺麗な石が入ってるんだよな。それが光を反射してキラキラ光るんだ」
栄はそう説明した。
 「・・・大事な人?」
碧が聞くと、栄は少し悲しそうに顔を歪めた。
 「ああ、どこから来たかもわかんないけど、小さい頃からいつの間にか一緒にいて、一緒に暮らしてた人なんだ。突然いなくなっちまったけど、
 俺にとっては兄ちゃんみたいなもんだった」
あくまで明るく、栄は言った。
 「・・・あなた、親はどうしたんです?」
ためらいがちに紅が言うと、栄は一言だけ答えた。
 「・・・いないよ」
 「そうですか・・・。すみませんでした、余計なことでしたね」
 「いいよ、ちょっと気になっただけなんだろ?」
紅をフォローするように笑顔で栄はそういって、その後こうも言った。
 「悪いとは思ってるんだ。・・・みんなに帰る方法考えさせといてさ、本人はそんなに帰りたいとも思ってないなんて、さ」
重たくなってしまった空気を振り払うように、蒼がパンパンと手を叩いて言った。
 「さっ、この話はもういいな。とりあえずお前が言いたかったのは、そのペンダントが狙われてんじゃないかってことなんだろ?」
 「ま、そういうこと」
話の筋を元に戻して真剣な顔をすると、蒼は言った。
 「結論。お前、外出禁止」
 「うえええええっ!?マジかよ〜〜っ!!」
その言葉に、栄が頭を抱えて叫んだ。
 「マジです」
紅が軽く笑顔で言った。
 「何でだよ!!俺、明日からこの辺りのこと見て回ろうと思ってたのに!!」
ばんばん机を叩いて抗議する栄に、白銀が言う。
 「・・・どんな目に遭うかもわかりません。用心するに越したことはないかと」
 「う・・・・・・」
何を想像したのか、栄が静かになる。
 「栄、ちょっと我慢してね」
碧が同情を含んだ目で栄を見た。



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