戦略的撤退?


戦略的撤退?

 「こうなると・・・もしかしたら事はもう動いてるかも知れねえな。近々出なきゃならないだろうから、
 その辺の心の準備はかっちりしとけよ」
謎の影の件を受けて言った蒼の言葉に、皆が頷いたのを確認すると蒼も頷いて、その場はお開きになった。

真夜中、爆発のような音と共に、強い振動が館を襲った。
 「な、何だ!!何があった!!」
部屋から飛び出て、蒼が皆に声をかける。
真っ先に走ってきた白銀が、普段と変わりない口調で言った。
 「やられました。・・・例の奴らのようです。すぐに皆さんをお起こしします」
その言葉に蒼は頷いた。
 「じゃあ碧と栄を頼む。俺は紅の方に行ってくる」
 「かしこまりました」
二人は確認するように視線を合わせ、その後別々の方向に走っていった。

 「兄さん!!どうなっているんです、これは」
蒼が紅の部屋に着くと、紅はすでに目を覚ましていた。荷物に手をかけ、状況を窺っていたようだった。
 「まだ詳しいことはわからねえ。だが、逃げなきゃならねえのは確かみてえだ。荷物持って来てくれ」
 「わかりました」
部屋を飛び出した蒼に続いて、紅も部屋を出る。
 「おい、何こんなときに鍵なんかかけてるんだよ」
ついてきているものだと思っていた紅がいないことに気付き、蒼が振り返ると紅は部屋の鍵をかけていた。
 「時間稼ぎです。こうしておけば扉を破るのに時間がかかるでしょう?・・・さ、行きましょう」
ここでようやく、二人は走り出した。
 「蒼様、紅様!」
白銀の声だった。反対側から三人走ってくるのが見える。
 「おう、皆無事か!!」
 「兄さん、僕たち逃げるの?」
碧が心配そうに聞く。
 「ああ、逃げなきゃな。・・・白銀、様子はどうなってる」
碧に笑顔を見せ、その後真剣な顔になって白銀に問いかける。
 「人数まではわかりませんが、念入りに捜索しているようです。まだ一階にいるようでした。
先程の揺れはボイラー室をやられた時のもののようです」
白銀がいつもより少し急いた口調で言った。
 「白銀、すごいんだよなあ。俺らが隠れてるちょっとの間に情報集めてきちゃってさ」
栄は大物なのかどうなのか、全く動じない。
 「ボイラー室ですか。・・・炎で逃げ道を塞ぐつもりでしょうかね」
紅が顎に手を当てて考える仕草をして言った。
 「こうなったらぐずぐずしてられねえ、行くぞ!!突破だ、ついてきな!」
蒼が先頭を走り、白銀が最後尾を走る。広い館は隠れるのには適しているが、逃げるのには少々不利なようだ。
 「碧、くまさん、リュックから落ちそうだぞ」
 「え、うそ!入れて入れて!!」
しかし栄も碧も、走り回りながらも余裕を失わない。その時、後ろから声が聞こえた。
 「・・・来ました」
白銀の、鋭い声。蒼が舌打ちをする。
 「くそっ、早いっつーの!!」
 「全く、お勤めご苦労様ですって感じですね!」
紅も悪態をつく。
 「なあに、振り切ればいい話だろ!?走れ走れ!!」
栄がいつもと変わらない明るい調子で言えば、
 「おー!!」
碧もそれに合わせて明るく言った。



back