意外な一面


意外な一面

その夜もまたいつものように、ヴィレが見張りをしていた。
火が消えそうになれば、ごそごそと木片を動かし、注ぎ足してまた燃え上がらせる。
その時、何かが動く気配がした。思わず身構える。
 「・・・・・・何だ、お前か」
 「ヴィ、ヴィレ〜・・・」
碧だった。
 「どうした?お前、一番にグウスカ寝てただろう」
 「あのね、・・・・・・おトイレ。こ、怖いからついてきて・・・」
どうやら、夜中に起き出したのはそれが原因らしい。
涙目になって、ヴィレを見上げてくる。そわそわしているところを見れば、そうとう葛藤はあったらしい。
 「・・・・・・わかった。行けばいいんだろう、行けば」
はあ、と大きなため息一つ。
 「あ、ありがと〜・・・だって、僕、おばけとかダメなんだもん!ぜ、絶対途中で戻らないでね!
 近くまでついて来てね!!なんかあったら、助けに来てよね!!」
 「何もあるはずあるまい。わかったから、さっさと行け」
切羽つまりながらも少し笑って、碧は木や草の茂っているところに駆け出した。それにのそのそとついていく。
近いところで立ち止まって、戻ってくるのを待つ。
 「終わったー」
 「手、洗えよ」
 「うん」
そのまままた走り出して、その先で水音が聞こえてきた。
 「・・・お前、でかい虫とか平気そうにしてるくせに、おばけがダメとは・・・」
手を拭きながらまたヴィレの元に寄って来た碧に、喉の奥でくくくと笑えば、碧が頬を膨らませる。
 「し、仕方ないでしょ!僕、正体がわかんないのとか、恨みとか、怖いもん!」
 「まあ、正直なのはいいことだな」
そのまま空いた手でぽんぽんと頭を撫でた。
 「う、うん・・・ありがと。えへへ」
その手を離すと、にっこりと碧が笑顔を見せた。
 「しかし、前はどうしていたのだ?・・・蒼たちにでもついてきてもらっていたのか」
 「ううん。・・・白銀さんについていってもらってた」
ヴィレがその名前を聞いて、切なげに眉をしかめた。
 「そいつ・・・無事かどうかも確かめる暇、なかったのだったか」
 「うん・・・それでね、僕がおトイレ行きたいなあって思って、起きて誰か呼びに行こうとするとね、
 必ず僕が開ける前にドアが開いて、『いかがいたしました?』って、言うの。それでね、
いつもついてきてもらってた」
 「・・・よっぽどお前が大事だったのだろう。それは」
 「?」
唐突なヴィレの言葉に、碧が首をかしげた。
 「親ってのはそういうものだろう。夜の見回り・・・相当、何回も往復してたと思うぞ」
親だってことを黙っていたならなおさら、とヴィレは言った。
 「・・・・・うんっ」
それに大きく頷いて、碧は嬉しそうに笑った。
 「じゃあ、僕もう一回寝る」
 「ああ。もう起きてくるなよ」
 「こないもん!」
またぷうっと頬を膨らませて、碧はたたたっと走り、振り向いた。
 「へへっ、何かヴィレ、兄さんみたいだね!」
それから碧が眠りについた後。
 「兄・・・か」
ヴィレの静かな微笑みが、月明かりに照らされていた。



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