小休止・子持ちの


子持ちの

 「飯、飯、昼飯〜!!今日はなんにする〜?」
栄が機嫌良く声を張り上げると、折りたたみ式テーブルを立てていた白銀が、後ろから声をかけた。
 「生ものから先に消費していきましょう。腐ってしまってはいけませんから」
その会話を聞いていた紅が首を傾げた。
 「・・・生ものですか?生ものなんて買ってありましたっけ」
そこに蒼がまな板を持ってやってきた。
その向こうに見える川では、フロウとヴィレが言い争いながら野菜を洗っているのが見えた。
 「何でもいいじゃねえか。白銀が買ったんだろ?買い物したって言ってたしよ」
その言葉に、白銀が頷いた。
 「魚か肉か、まあ何でもいいや!どーれだ?」
栄がにこにことしたまま荷物を探る。缶詰、果物など一通り取り出した後で、何かが手に当たった。
 「お、これかな?」
引っ張り出されたそれは。
 「・・・『子持ちししゃも』」
大根を手にした碧が商品名を読み上げる。
 「・・・・・・白銀、ししゃも好きだっけ?」
蒼が思わず白銀を振り返る。
 「・・・嫌いではありませんが、それほど好きでもございません」
白銀は首を横に振った。
 「じゃあ何でししゃもなんだ?」
栄がししゃもを大事に抱えたまま訊ねた。
 「・・・町を見て回っていましたら魚屋のご主人に声をかけられまして」
白銀が事も無げに口を開く。
 「娘さんが私を気に入ってしまったと言われました。しかしお応えするわけにもいかず、
 丁重にお断りしたのですが、なかなか解放して頂けないので」
 「?」
白銀が唐突に語りだした内容の意味が読めずに、栄、碧、蒼が首をひねる。
その中で紅は楽しそうな笑顔を見せていた。
 「・・・何とか遠回しにわかっていただけないかと思い、購入いたしました」
 「ぷっ!くくく・・・あははははっ!」
紅が耐え切れずに笑い出した。
 「え〜、何だよ紅!!教えろよ!!」
 「何が面白いんだ、今の話!!」
 「あははははっ」
理解できなかった栄と蒼が紅に詰め寄り、理解した碧が楽しげに笑った。
 「・・・その魚屋、いっそ哀れだな・・・」
綺麗に洗われたゴボウを抱えてきたヴィレが呟くと、
 「ヒントは・・・ただのししゃもじゃなかったところ、かな?」
洗いたての人参をザルに山盛りにしたフロウが、笑顔で言った。



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