小休止・休憩
休憩
「う、うえ〜・・・気持ち悪・・・。ひどい目にあった・・・」
栄が青い顔でぐったりしている。
「なんだい、だらしないねえ」
「全くだな。この程度で音を上げていては、この先どうしようもないぞ」
フロウとヴィレは、反対にぴんぴんしている。
「まあ、俺らは慣れだな」
「そうですね」
「そうだねー」
「私は、運転しておりますので・・・」
もちろん、四人も平気な顔をしていた。栄が「吐きそうだ」としきりに訴えたため、車を止めて休憩する事になったのだった。
「栄ー、だいじょぶ?」
碧が心配そうに栄の顔を覗き込んだ。
「ううー、碧ー、たすけてー」
背もたれを少し倒して横になり、うんうん唸っている栄の様子に、蒼が苦笑した。
「まったく、ホントにこりゃどうしようもねえな。今日はこの辺にして、ゆっくりするか」
蒼のその言葉に皆が頷いたのを見て、栄がほっとした顔をした。
「栄様、水でございます」
「・・・サンキュー白銀」
白銀が水を運んできたのを視界の端に捉え、栄は半身を起こして水を受け取った。
「・・・申し訳ございませんでした。まさか酔ってしまわれるとは思いませんでしたので・・・」
「ああ、そんな事気にすんなよ。俺、もともと乗り物酔いしやすいタイプだったからさ、むしろ今まで酔わなかったのが不思議なくらいで。
でもほら、白銀が水持ってきてくれたからだいぶ楽になったぜ?」
に、と笑って栄がそう言うと、白銀も微かに笑ったようだった。
「・・・それは、良うございました」
「栄、大丈夫かい?食事はとれそうかな?」
そこに、フロウが文字通りひょっこり顔を出した。今まで料理していたのか、長い髪は後ろで結わえられている。
「おう!食うものは食わないとな!!俺、乗り物酔いより腹減るほうが恐ろしい〜」
「ははは・・・それだけ元気なら大丈夫だね。持って来ようか?それともこっちに来るかい?」
「ああ、もう大丈・・・」
「おい、飯だぞ。一応持ってきてやったが」
大丈夫、と言いかけたところに、丁度ヴィレが顔を出した。片手で器用に盆を持ってドアの縁を掴む。
「・・・持って来たのかい、ヴィー君」
「・・・・・・・・・いらないなら戻すぞ」
「い、いる!!食べる!!・・・・・・へへ、ありがとなヴィレ」
ヴィレから盆を受け取ってにかっと栄が笑うと、ふんと鼻を鳴らしてヴィレは立ち去った。
「はは、素直じゃないねえ。あれでいて、結構心配してたんだよ〜ヴィー君は」
フロウがそう言うと同時に、車の外で木が倒れる音がした。
「ちょっとー!ヴィレ、自然破壊〜!!」
続いて、碧の声。
「・・・・・・聞かれちゃったみたいだけど?」
「ははは・・・」
「・・・・・・・・・それでは、私はあちらを手伝って参ります」
白銀がそう言って車を出た後、紅と蒼が入れ違いに入ってきた。
「・・・どうです?いい加減治りました?」
「ようっ、車酔い少年!調子はどうだよ?」
「・・・・・・・・・今のですっごい具合悪くなったぞ」
蒼が来たことで一気に騒がしくなったような気がする車内に、栄がため息をついた。
「まあまあ。ほら、お前ここにいるからさ。今日はみんなで車ん中で食べようぜっつーことになったんだよ」
「・・・へ?」
言われて栄が二人を見ると、確かにできたてのほかほかご飯の乗った盆を持っていた。
「いいじゃないですか。それともあなた、皆が楽しそうに食事しているのを横目に一人寂しく食べたかったんですか?」
言いながら横に座る紅に、栄が思いきり首を横に振った。
「んなわけないだろ!!俺、皆でいるほうが楽しいもん!」
「じゃあ文句言うなよ。ったく」
「言ってないだろー!!」
「ほらほら、もうちょっとよけて。通れないだろう?」
「おなか空いたねー」
「・・・全く、何故俺まで・・・」
「・・・・・・・・・」
結局本当に全員車で食事を取る事になった。食事するには狭い車内に、栄はなんとなく困ったような顔をしながらも内心嬉しかった。
「・・・・・ありがとな、みんな」
呟いた声は笑い声に溶けた。