小休止・外に出るためには


外に出るためには

 「というわけで、いよいよ本格的に外に出る準備を始めようぜ」
昨日の不審な影の件を受けて、蒼が切り出した。
 「そうですね・・・栄だって、このまま外に出られないのは退屈でしょうから、ならいっそこちらから出てしまえばいいんですね」
紅なんかは、「ちょっとそこまで」のノリでさらっとこの町を出て行ってしまいそうな軽さで言った。
 「何を持っていけばいいの?荷物、いっぱい必要?」
碧はちょっと不安、ちょっとわくわくしているようである。
 「・・・そんなに沢山持っていては動けません。必要最低限に留めるべきでしょう」
白銀が冷静に意見を出す。
 「食いもんだよ、食いもん!!それが一番大事だろ〜?」
栄がばんばん机を叩く。
 「・・・あ〜まとまらねえ!!とにかく、準備だ!!必要だと思うものを持って三十分後にここに集合だ!!解散!」
蒼の一喝で、あるものはうきうきと、あるものはすごすごと、それぞれ散っていった。

 「・・・・・・で、なんだよこれは」
蒼が呆れた声を出したのは、あれから三十分後。
 「何って、ねえ、碧」
 「荷物だよね?」
紅、碧の答えに、蒼がその場に崩れ落ちた。
 「だからぁ、こんなにいっぱい持っても歩けねえって、白銀言ってただろ〜!?」
沢山の荷物に、蒼と白銀は顔を見合わせた。
 「・・・これは、いかがいたしましょうか」
 「お、俺に聞くの?それを」
困惑した白銀に急に話を振られた栄がうろたえる。
 「だって俺は、もともと荷物ないからさ・・・ははは・・・」
三十分も経って、何も持たずに出てきたのは栄だけだった。
 「・・・それでは、食料の一つをお預けしてもよろしいでしょうか。他の場所で使えるかはわかりませんが、
 念のため現金も入れてあります」
 「あ、うんわかった」
栄が白銀から食料の入った二つのボストンバッグのうち、一つを受け取った。
 「とりあえずさ・・・碧、おもちゃはひとつにしな?」
碧が持ってきた山盛りのおもちゃを指して、蒼が言った。
 「えー、一つ?・・・うーん、じゃあせめて、二つがいいな。このくまさんと車だけは絶対に持って行きたいから」
 「ああ、いいさ。じゃああとは置いてきな」
 「はあい」
返事とともに、碧は二つのリュックを抱えて部屋に戻っていった。
 「・・・・・・あの二つ、全部おもちゃですか・・・」
紅が碧が走り去った方向を見ながら言った。
 「お前も人のことは言えねえって。さ、観念してその本を置いていくんだ」
 「に、兄さん!!私にこの本たちを見捨てろって言うんですか!!これでもだいぶ絞ったんですよ!?」
ありえないという顔をして紅が言うが、蒼は全く気にしていないような調子で言った。
 「お前は碧よりタチが悪いな。さっさと置いて来い。一冊くらいは持っていいから」
 「仕方ありませんね・・・じゃあ、これだけ持って行きますよ」
そう言って紅が本の山から取り出した本は、古い伝承が載っている本だった。
 「その本、ホントにお前好きだな」
 「いいでしょう。私は、はるか遠い時代の真実がはっきりわからない話が好きなんですから」
ふん、と鼻を鳴らして、紅は三つあった鞄のうち二つを持って奥に消えて行った。
 「・・・・・・・・・」
その様子を見ていた白銀が、小さくため息をついた。
 「・・・前途多難って、こういうののことを言うのか?」
 「多分ね」
蒼がぐったりしてそう言うと、栄が肩をすくめて相槌を打った。



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