小休止・回想 草笛


回想・草笛

 「白銀さん?・・・・・・何やってるの?」
碧はその日、学校が休みで暇を持て余していた。そこに、裏庭に佇む白銀の姿を見つけ、近寄っていった。
 「・・・・・・笛を、吹いていたのです」
 「笛?・・・・・・どこにも笛は持ってないでしょ?」
不思議そうに見つめてくる碧を見て白銀は少し笑い、あるものを取り出した。
 「草笛、です」
緑色をした柔らかい葉が三枚、白い手袋をした手に収まっていた。
 「草笛?・・・ねえ、どうやって吹くの?僕もやってみたい!!」
きらきらと目を輝かせて頼む碧を見て、白銀はさらに優しく笑った。
 「ええ、お教えしますよ。コツをつかめば簡単ですから、まずやってみてください」
そう言うと、葉を碧に手渡して、自身も葉を口に当てた。
 「軽く、少し押さえるくらいにして口に当てて、吹くのです」
白銀が息を吹き込むと、音がした。柔らかく、儚げな音色だった。
 「ようし、じゃあ僕も・・・」
碧も白銀がやってみせたように吹くが、ふーふーと息のかかる音がするだけで、一向にあの音は鳴らない。
 「・・・・・・そんなに強く吹かなくていいのですよ。もう少しだけ軽く、吹いてみてください」
そう言うと白銀は碧の手を上から一緒に押さえた。
 「押さえる強さはこのくらいです。もう少し端のほうを押さえて・・・そうです」
白銀が手を離すと、碧は軽く、軽くと呟いてから、そっと吹いてみた。
少し音は小さかったが、確かに音が鳴った。
 「鳴った!!今鳴ったよね!!」
後ろに立つ白銀を振り返って、嬉しそうな笑顔で碧が言うと、白銀も微笑んだ。
 「ええ、綺麗な音でしたよ」
喜んで何回も草笛を吹く碧を、白銀は目を細めて見つめていた。

 「・・・白銀さんすごいね。僕が知らないこともいっぱい知ってるし」
一通り笛を吹き終わった碧が庭のベンチに座って言うと、隣に座る白銀は苦笑した。
 「そのようなことはないと思いますが。それにあなたもそのうち、色々なことを知るのですから」
そして葉を口に当てて、また草笛を吹いた。一つの音ではなく、優しい曲が流れてきた。
 「・・・・・・・・・僕のホントのおとうさん、白銀さんみたいな人だったらいいのにな」
ぽつりと呟いたその言葉を聞いて白銀は、草笛を止め驚いたように碧を見て、それからふわっと笑った。



back