からやたその4


「かーらーくーれーなーいー!!」
遠くから呼ぶ声が近づいてくる。
走る八魂に気付いた唐紅が、目を開く。
そして地を見て、呼びかけようとした。
「・・・やた」
「わあっ!!」
「・・・・・・八魂、下に気をつけろと・・・言おうと思ったのだが」
「う・・・ありがとな、唐紅・・・」
木の根に足が引っ掛かり体勢を崩した八魂は、半身を起こして座る唐紅の腕の中に飛び込む形になった。

「・・・唐紅?」
腕の中に八魂を捕らえたままの唐紅に、八魂が首を傾げる。
「いや・・・」
腕を緩める唐紅に、八魂はにっこり笑って抱きついた。
「わかった!!離れないーっ!」
ぎゅうっと背中に回された腕の暖かさに、唐紅は笑う。
「・・・ああ」
片手で八魂の頭を撫でると、微かに震えが伝わり、笑ったのがわかった。
そのまま、片手を頭の上に乗せたままにしていると、じんわりと温かいのが気に入ったのか八魂も頭を動かさない。
「あったかい」
それからも暫く心地よい静寂を感じながらそのままでいると、ふっと八魂の腕の力が緩んだ。
「・・・八魂・・・?」
静かに呼びかけると、答えるのは規則正しい寝息。
「・・・・・・寝てしまったか」
完全に地面に落ちた腕をそっと動かし、それから仰向けてやると、身じろぎして横を向いた。
苦笑しながら、起こさないようそっと動き、着物を一枚脱いで掛ける。
暫くそのまま、静かな時間を楽しんだ唐紅はふっと上を見上げる。
晴れた空。
こんな日は、唐紅も少々悪戯心が起こる。
「・・・八魂・・・起きぬか」
唇に指を這わせると、くすぐったいのか八魂は眉根を寄せて身じろぎした。
「・・・・・・・・・」
起きないのを見て取ると、次に鼻を摘む。
「ふがっ・・・・・・う〜〜・・・」
少し苦しそうにしたが、しぶとく寝入ろうとする八魂に、止めの一撃。
「っひゃあああっ!!・・・っ唐紅ー!!やめろよっ、耳に息かけるのっ!!」
「・・・流石に起きるか」
驚いて飛び起きた八魂に、唐紅が珍しく楽しそうな色を言葉に乗せて言った。
「当たり前だろっ!!もー!!」
そして喚いた拍子に、肩の端に引っ掛かっていた唐紅の着物が、ひらりと落ちる。
「・・・ん?・・・・・・掛けてくれたのか?唐紅」
「・・・ああ」
その着物をまじまじと見つめた後、八魂はそれを拾い上げ袖を通してみた。
「・・・ぶかぶかだ・・・」
「当然であろう・・・体格が違う故」
返せ、と言いたげに手を差し出す唐紅に、八魂がにやっと笑う。
「悪戯されたお返しだっ!コレはオイラが暫く預かるからな!」
言って、しっかりと着こんで放さない様子を見せた八魂に、唐紅が微かに苦笑する。
「・・・・・・そうか。それでは・・・」
言葉を切ると、八魂が引きずってしまっている己の着物の裾を引いた。
「・・・っうわ!?」
「お前ごと受け取ることにしようか・・・」
着物を引かれ倒れこんだ八魂を抱きとめて、艶やかに笑う。
「〜〜〜〜〜っ」
仕返しをしたつもりがやりこめられて、八魂は顔を真っ赤にして悔し紛れに抱きついた。






なんだこりゃ!!(ツッコミ)