やかこたその2


風が吹く。
小太郎は空を見上げた。
空は未だ青く、日が落ちる気配は無い。
それでも、風が吹く度に小太郎は空を見上げる。
風が吹くと、あのひとが来るような気がして。


「・・・よう、小太郎」
窓をがらっと開けた夜狩に気づき、小太郎は机に向かっていた顔をぱっと上げた。
「夜狩!」
「待たせたな。今日は遠くまで行き過ぎてよ・・・遅くなった」
小太郎の家に来る前に、軽く町を一回り。
夜狩の習慣だ。
すまなそうに言いながら小太郎の髪をくしゃくしゃと掻き回す手の心地よさに、小太郎は目を閉じる。
「仕方ないよ・・・気にしないで」
「お前・・・、・・・まあ、何だ・・・あのバカウサギ、今日は居ないのか」
何か言いかけて、話題を変える。
バカウサギ、とは白迅のことだ。小太郎は苦笑して言う。
「今日は、ちょっと下でね・・・母さんが」
白迅は清江の手伝いをしているらしい。
「そうか」
笑う夜狩に、小太郎もつられてにこりと笑う。
「丁度いい。うるさいのが居ないうちに、外、出ようぜ。このまま」
「え?」
笑顔から一転きょとんとして小太郎が疑問の声を発する。
「邪魔が入らないところに行こうってんだ、いいだろ」
言うが早いか、夜狩は小太郎を抱き寄せて窓を開ける。
「えっ、ちょっと、夜狩!!黙って行ったら・・・!!」
駄目だよ、と小太郎が言うと、夜狩は髪を風に遊ばせたままにやりと笑う。
「・・・ほら、これでも置いていけばいいだろ。行くぞ」
どこからか梟の羽を一枚取り出すと部屋の中にぞんざいに放る。
そのまま二人が飛び立った部屋に、白迅が帰ってきた。
「小太郎〜、清江さんが・・・あれ〜?」
窓が開いたままの部屋に、目を丸くする。
足元にゆらゆらと揺れながら落ちてきたのは、梟の羽。
「・・・・・・あいつかー・・・も〜、ご飯の時間だって言いに来たのに・・・」
文句を言いながらこのままでは落ち葉が入ってきてしまう窓を閉めるが、鍵はかけない。
「清江さーん!小太郎、ご飯遅くなるって〜」
言いながら、白迅は階段を駆け下りた。

「夜狩・・・!!僕、高いところ駄目なんだけど・・・っ!!」
必死でしがみつく小太郎に、夜狩が楽しげに笑う。
「心配しなくても落とさねえさ。・・・そろそろ降りるから、我慢しろよ」
それから少しして降り立ったのは、町の外れ、丘の上。
あまり人が来ることもないそこは、しんと静まり返っている。
「この辺まで来れば、そうそう人も来ないか」
「夜狩・・・何でわざわざこんなところまで・・・?」
ほっと息をつきながら小太郎が尋ねると、夜狩は柔らかく笑った。
「・・・お前、たまには言いたいこと言ったっていいんだぜ。俺は構わねえからよ」
「・・・え?」
小太郎が軽く目を見開くと、夜狩は続ける。
「どんな事でもいい、俺に言えよ。・・・お前が言いたいこと我慢してるのくらい、俺にだってわかる」
今なら誰もいない、と夜狩は真剣な眼差しを向ける。
「・・・・・・・・・夜狩」
それでもためらう小太郎の頭を、夜狩は緩く撫でる。
「無理な事でも、構わねえ。何でも、いいから。・・・聞かせろよ」
「・・・っ」
その言葉に、泣きそうに顔を歪め、不意に小太郎は夜狩に抱きついた。
「っと・・・おい?」
少しよろめきながらも受け止めた夜狩は、突然のことに戸惑う。
「・・・・・・会えないとき、寂しいし、いつでも顔見たいし、声聞きたい・・・っ
・・・ずっと、ずっと・・・傍にいて欲しいよ・・・!!」
絞りだす様に涙声で、願う。
届かない、叶わないと分かっていても。
「・・・そうか・・・・・・有難う、すまない・・・」
頭の上から優しい声が切なく響く。
背中に添えられた手の暖かさに、小太郎はますます涙が溢れるのを感じた。


こんなにあたたかいのに、離れなければなりませんか
共にあることを神に願うこともできないなら、せめて
ほんの少しの間だけでも、

このまま時を止めてください






愛は暴走機関車!(照れ故にわけがわからない)