やかこた3


がしっ。
と、後ろから掴まれた気配を感じて、夜狩はぴたりと立ち止まった。
「……おい」
「…え?」
そのまま勢いよく振り返る。
手からするりと抜けたそれに、小太郎は残念そうに苦笑した。
「え、じゃねえだろう…。急に髪掴んでんじゃねえよっ」
「あ、ごめん」
悪びれた様子のない声の調子に、夜狩はふうっと息をついて苦笑した。

「だって、夜狩はいつも僕の髪…というか頭触るのに、僕は触ったことないなあって思って」
未だ名残惜しそうに手を見つめる小太郎の様子に、夜狩が頭を掻く。
「んなもん…触る必要がねえだろう」
「えー…だって、いつも目の前ゆらゆらしてるから、気になるじゃないか…」
駄目かな?と首を傾げられては、夜狩も弱いわけで。
「……ったく、改めて触るもんでもねえだろうよ」
口ではそう言いながらも手近な庭石に腰を下ろす夜狩に、小太郎はにっこり笑った。
「ありがと」
「高くつくぞ?」
にやりと笑う顔にあははと笑いを返し、小太郎は小走りで後ろに回る。
「わ…ふわふわ」
曲線を描く濡羽色の髪は見た目より柔らかく、さらさらと掌を流れる。
「…まだか?」
「もうちょっと…」
小太郎は飽きずにその感触を楽しんでいるらしい。
嬉しそうな雰囲気が伝わってくるために、夜狩は何も言えずに頬杖をついた。
「…えいっ」
「…っ、おい」
照れ隠しのような、はにかんだ響きを含んだ掛け声と共に首へ回された腕に、
夜狩は一瞬たじろいだがすぐにふっと笑う。
「……小太郎」
「?」
ちょいちょいと呼ぶように指を動かす。
それに誘われるように小太郎がひょこりと後ろから顔を出すと、その頬に手を当て引き寄せた。
「!! やか…」
静寂。
「…高くつくって、言っただろ?」
唇を離すとにやりと笑うその口元を、軽く叩いて。
「……何が高いんだよ」
そう言った顔が真っ赤に染まっていたのは、言うまでもない。






いちゃついてるだけの話…(笑)