がけこた1


立ち尽くす。
「どうして…」
「…オレが此処に居てはいけないということは無いだろう?」
僅かに上げられる口の端。
足が動かない。
小太郎は零れそうに目を見開いたまま、動けずにいた。
通学路の途中。
「……でも、あなたは」
「ああ…そうだな…。オレはお前にとって、敵だ」
分かっているなら、何故、と思ったのが顔に出たのか、牙血が笑う。
「少し顔を見るくらいも許されないか…?嫌われたものだ」
「…!? どうしてそんな必要があるんですか。僕は…!!」
そこまで言ったところで牙血が急に、歩を進める。
小太郎は後ずさろうとして、足が動かないことに気づく。
逃げたい、なのに、逃げられない。
「…何だ?……怖いか…オレが」
すぐ近くで、顎を捉えられ、上向かせられる。
瞳を覗き込まれると、全てを見透かされるようで。
薄い色の瞳が微かに笑う。
肌に触れる硬い爪の感触に、ぞくりとする。
痛いほどに冷たい手。
「僕は…」
怖いのか、違うのか分からずに、言葉に詰まる。
それを見て、牙血はそのまま、小太郎の耳元に口を寄せる。
「質問を変えようか…。…オレが、嫌いか?」
「あなた、は…」
何故だろう、一言、言えばいいのに。
言葉が出ないのは。
「僕、…」
息が詰まる感覚すら覚える。
嫌いと言えない。声が出ないのは、何故か。
「…ふ…。まあ、いいさ…お前にあまり構うと、うるさそうだからな…」
口の端を上げて笑うと、頬に口付ける。
「…っ」
「オレを…いや、……お前は、もう…」
「……?」
囁くように言い、手を離す。
「…帰るといい。オレは追わない」
「え?」
唐突な話の流れが読めず、小太郎は目を丸くする。
「…いつか、お前が…」
言いながら、小太郎の前に手をかざす。
「…!?牙血、」
「………」
淡い光が発せられると、小太郎の意識は遠のいた。
「…オレを選ぶことは…ないだろうな」
小さく聞こえた声に答える事も出来ず、完全に目の前が真っ黒になった。

「…小太、小太郎ってば!!」
「…っ!!? え!?」
はっと目を覚ますと、目の前には見覚えのあるタレ目。
「……はあ〜。何やってんの?家の目の前でぼーっとしちゃってさ〜」
びっくりしたよ〜、と間延びした声を聞くと徐々に頭がはっきりしてくる。
「…僕…ここに立ってた?」
ずっと?と聞く小太郎に、白迅は首を傾げる。
「うーん…ずっとかはわかんないけど。立ってたみたいだよ?」
納得の行かない顔をしている小太郎に、白迅はきょとんとする。
「……何かあったの?」
「え、あ、いや?…なんでもない、ただいま」
「あ、おかえり」
にこっと笑って踵を返し家の中に入る白迅の後に続こうとして、ふと足を止める。
「…牙血」
呟いてみれば、確かに蘇る感触。
硬い爪、冷たい手。
それなのに頬に触れた感触は、柔らかで暖かかった。
「牙血…」
空を見上げれば、既に日は落ち、冴えた月が昇っていた。






初がけこた…ついにやっちゃった(苦笑)