しらこた5


「こーたーろーっ」
「どうしたの、白迅」
夜も更けた頃、幾重にも重なる虫の声を掻き消すように、どたどたと足音が聞こえる。
図体でかいんだから走るな、といくら言っても全く治る気配は無く、白迅の癖なのだと諦めた小太郎は振り返った。
「何か聞こえない?」
にこりと笑って白迅が耳に手を添える。
「何か…?」
それに釣られるように耳へと手を持ち上げた小太郎の耳に、聞こえてきた音。
「…打ち上げ花火の音がする…」
「そう!花火!!近くでやってるみたいなんだよ〜、だからさ」
「見に行こうって?」
先を察して返した小太郎の言葉に、白迅は大きく頷いた。
「うん、行こうよ小太郎!!まだ始まってすぐみたいだから、今から行けば沢山見れるよ〜!!」
「え、行くのはいいけど、どこでやってるかわかんなかったら…」
見れないだろ、と言う小太郎に、白迅がにこりと笑顔を浮かべた。
「ソレはご心配なく〜。音の方向と距離から察するに…町外れの丘からでも見えるはずだよ。多分あそこなら、人も少ないね」
得意げな白迅に、怪訝そうな視線を向ける小太郎。
「お前、そんなことまでわかるの?」
「うん、なんたって僕うさぎさん」
えへん、という白迅に、何となく納得行かない表情を浮かべつつも、小太郎は頷いた。
「…そうだな。それじゃあ、行こっか」
「やったー!よ〜し、そうと決まったら早く行こう!!早く早く!!」
急かす白迅に苦笑しながらも、小太郎は白迅に手を引かれ家を飛び出した。

「ちょっ…白迅、早い…っ!!」
手を引かれ駆け出したはいいものの、白迅の速さに引きずられるばかりで、足がもつれそうになるのを必死にこらえて白迅に訴える。
「え?これでも結構加減して走ってるんだけど〜…うーんそうだなあ、じゃちょっと失礼〜」
立ち止まり一人でひとしきり言い納得すると、小太郎をひょいっと持ち上げた。
「わわっ!!ちょっ…、白迅!?」
「早くしないと花火終わっちゃうから、ね」
近くに見える赤い瞳がふっと寂しそうに笑ったように見えて、小太郎は慌てるあまりじたばたしていたのを止めてその目に見入った。
「? どうしたの〜?さ、走るからしっかり掴まってね〜」
にこりと笑った顔はいつもの顔で、小太郎は目を瞬いたがすぐに気を取り直して頷いた。

「わあっ…!!本当に良く見えるね!!」
白迅に抱えられたまま辿り付いた丘の上。
「うん、そうだね〜!!急いできた甲斐があったよね!!」
少し遠くではあるものの、色とりどりの光の花が咲くのが見えた。人影は無く、良い穴場といったところのようだ。
白迅に降ろしてもらい、隣に立って花火を眺める。
暫く無言の時が流れて、もうそろそろ花火も終わりの時間では無いかと思った時、白迅が口を開いた。
「…綺麗だね、花火」
「……うん」
静かな声は、普段と違う響き。
夜の闇が、白迅の姿を掻き消してしまう気がして、小太郎は目を凝らして白迅を見つめた。
「こうしていられて…キミと花火を見られて…ホント、嬉しいなあ」
「…白、迅…?」
「長い時を過ごしたけど、色んなヒトにあったけど…僕は、キミがいいんだ」
静かに、夜の静けさを壊さぬように発せられる、声。
「いつかキミと離れるときが来ても…」
ふっと言葉を切った白迅が、小太郎を見つめる。
「…白迅」
白迅の言葉を聞いていた小太郎が、口を開く。
「好きだよ」
「こ、小太郎?」
突然の言葉に白迅が目を丸くする。
「今ここにいる僕は、白迅が好きだよ。…それじゃ駄目なのか?」
「…キミは…」
大きく見開かれた瞳が、真っ直ぐな瞳とかち合う。
「……どこまで僕のコトわかっちゃうのかなあ〜…」
ふうっと息をつくと、情けなく眉が下がる。
「え?…えっと…思ったこと言っただけ、なんだけど」
それを見た小太郎は、照れたように頬を掻く。
「…ありがとう、小太」
言って微笑むと、少し屈んで小太郎の額に口付けた。






色々詰め込んでみた(笑)