やかこた4
「……」
むすっ、とお世辞にも上機嫌とは言えない顔で、小太郎は机に突っ伏すような形で顎を乗せた。
今日こそは。
「…来てくれると思ったのに」
呟くと、動いた顎が机にがつがつと当たり、じんじんと痛みを発する。
それすらこの場に居ないあいつの所為に思えて、小太郎は更に不機嫌そうに眉をしかめた。
5日。
多いというわけではないが、小太郎が不満な顔をするのには充分な日数。
顔を見せない、この場に居ない憎たらしいあいつ、つまり夜狩の顔を思い出すと、最後に見たのは何とも普段どおりのにやりという笑みで。
「〜〜〜〜っ」
思い出さなければ良かったと頭をかきむしると、はっとしてすぐ、ぐしゃぐしゃになった髪を整えた。
そんな行動でも、頭を撫でられた感触を思い出してしまって、小太郎は一人赤面する。
「何やってんだろ…僕」
はあ、とため息一つ。
そうしてまた机にがくっと、今度こそ完全に突っ伏すと、耳をくすぐる声。
「…本当、何やってんだ?お前」
「…っ!!」
あまりに近い声に、思わずがばっと勢いよく起き上がる。
「っと、危ねえな」
危うく顎に頭突きを食らいそうになって、慌てて飛び退いたその気配。
少し笑いを含んだ声は、聞き間違うはずもなく。
「…や、や、やかっ」
「おう」
椅子を回して振り向くと、片手を上げてにやりと笑う顔は、紛れも無く夜狩。
いつの間にか室内にいたことよりも、夜狩がいること自体に驚いた。
と同時に沸いた怒りも、驚きと共にどこかに飲み込まれ、後に残ったのはきょとんとした小太郎の顔。
「…おい?小太郎?」
あまりじいっと見つめるものだから、心配になって掛けた声を、小太郎は何回も心の中で繰り返し。
「……夜狩だ」
「あ?ああ…他の何かに見えるかよ?」
ぽつんと呟いた言葉に返したその声も、じわじわと内側に広がるようで。
「夜狩だ…っ」
気付くと椅子から腰を浮かしていて、いつの間にか飛びついていた。
「っおい!危ねえ……、小太郎?」
急な行動に面食らって体勢を崩された夜狩は、それでも小太郎を庇うように倒れこんで、それから顔を覗きこむ。
「おい…本当に大丈夫か?怪我とか…」
まさか俺が来る前に頭を打ったんじゃあ、などとぶつぶつ呟く夜狩に、小太郎はふるふると首を振った。
「…何でもないっ!」
満面の笑み、という表現がぴったりの笑顔を夜狩に見せて、またぎゅうっと抱きついてしまった小太郎に夜狩は苦笑すると、
「そうかよ」
ほんの少し残っていた余裕を振り絞ってそう言い、さらさらの髪をそっと梳いた。






…押し倒される夜狩…(爆笑)