ひろこた


「ん〜…っ!!」
ぐいーっと、背伸び。
「はあ…駄目かあ」
本を持った手を引っ込めて、ため息をつく。
夕暮の空と同じ色に染まった図書室でがくりとうなだれるのは、小太郎。
「あとちょっとで届くんだけ、ど…っ!!」
ぴょん、と跳ねるが、少しかする程度では、本は本棚に納まってくれない。
台が使えればよかったのだが、ぐらぐらして危ないからと、つい先日撤去されたばかりだ。
代わりの台はまだ来ていない。
「もう一回やって駄目なら、もう帰ろう…」
一冊くらい多目に見てくれるだろうと、小太郎は再びため息をつき。
「よしっ」
ぴょん、と飛ぶと、後ろに影。
「よっ」
「うわあっ!?」
掛けられた声に驚いた拍子に手がぶれて、本は入らなかった。
その上着地に失敗して大きく体が揺らぐ。
「おいっ!!」
背中に軽い衝撃。
咄嗟に回されたのだろう腕に包まれると、見覚えのある手。
「おいおい小太郎くーん。気をつけてくれないといかんね〜」
「…ひろ!!お前がおどかすからだろっ!!」
「悪い悪い、びっくりしたか」
勢いよく振り返ると、にっ、と笑うその顔が見えて、小太郎はべしっと鼻を叩いてやった。
「あいてっ!何だよ、がっちりキャッチしてやったろー!?」
「誰のせいでびっくりしたんだね?言ってみなさい広くん?」
先ほどの広の偉そうな口調を真似た小太郎に、広が苦笑する。
「はいはい、俺ですよっ!!」
そこまでやりとりすると、小太郎はそういえばと言って話題を変えた。
「…ひろ、何でここにいるんだよ?」
「ん?」
その問いに一瞬片眉を上げると、すぐに口元を笑いの形にして、言った。
「コレ」
声と共に掲げられたのは、2人分の荷物。
「一緒に帰ろうぜ」
「ひろ、僕の荷物も持ってきてくれたのか」
うん、いいよと笑う小太郎に、広もにっと笑う。
「おう。っと、その前にさ」
そう言うと、すいっと小太郎の手の本をそっと奪う。
「この本、片付けてからな」
向かい合ったまま広が手を伸ばすと、その体と本棚に挟まれる形になって、小太郎は知らず息を詰める。
「よし、入った…っと、どした?」
顔赤いぞ、と言う声にはっと小太郎は我に返り、言い返す。
「赤くないよっ」
「はは〜ん…お前、この広様の魅力にドキドキしてんな?そうなんだろ?」
小太郎の荷物を手渡しながら意地の悪い笑みで言えば、小太郎が肘で軽く小突く。
「誰がだよっ!!」
「えー小太郎は俺にドキドキしてくれないのかーこんなにモテモテなのに」
「しないよっ!!」
「ははっ、そっかそっか」
笑って、それから小さく呟いた。
「そう、だな」
「何か言った?ひろ」
一歩前に出た小太郎が振り向くと、広はにっと笑顔を見せる。
「何にも!ほら、早く行かないと夕飯食い損ねるぞー!!」
「夕飯…って待てよっ、ひろー!!」
「小太郎んち今日はカレーだ、きっと!!」
「何の根拠があるんだよっ!!」
駆け出した広を追って、小太郎も駆け出して。
走りながら振り返る広の顔が一瞬、寂しそうに見えたのは気のせいなのだろう、と。






ひろ片思い話…(笑)小太郎は無自覚…なんですかねコレだと