ひろこた2


「ひろーっ」
呼ぶ声に振り返る。
「ん?どした、小太郎」
「今日は帰り何もないんだろ。一緒に帰ろうよ」
呼び止めて何を言うかと思えば、そんな台詞。
「…おう!全く、なーに改まってるんだよ」
当然、一緒に帰ろうと思ってたと言えば、小太郎が笑う。
「じゃ、帰りにな」
「うん、忘れるなよっ!」
言うとぱたぱたと走り去った小太郎の背に視線を向けたまま、広は呟いた。
「…ホント、何をそんなに念押ししてんだ?」

「小太郎!帰るぞー」
鞄を持ち肩に引っ掛けると、広は教室の中にいるであろう小太郎に声をかけた。
「あ…うん」
「…どした?」
教室の隅に居た小太郎を見つけて、歩み寄る。
「ううん、何でもないんだ…。帰ろ?」
「…?」
一瞬、小太郎の視線が自分の手に向いた気がしたが、広は深く追及せず歩き出した。

「…」
「……」
校門を出てしばらく無言で歩く。
話しかけてもいまひとつ反応が悪い小太郎に、広は対応に困り黙り込んでしまっていた。
「…なあ、小太郎ー。どうしたんだよ?元気ないぞ」
ぽん、と軽く背中を叩くと、小太郎は俯いていた顔を上げる。
「……何でもないんだ」
また、学校を出る前と同じ答えが返ってきた。
「何でもないってなあ…そんなしょげた顔して、どこが何でもないんだよ!」
多少苛々した気持ちが言葉の端に出てしまう。
立ち止まり、また俯いてしまった小太郎に、落ち着かなければと深く息をつく。
「…なあ、小太郎。俺には話せないのか?それとも…俺だからか?」
「ひろ…!!」
ばっと顔を上げた小太郎の瞳が揺れているから。
「お前、嘘つけないよな」
思わず苦笑すると、小太郎も釣られるように僅かに笑った。
「朝は元気あったろ?帰るまでに、何かあったんじゃないのか」
そっと訊くと、小太郎はためらいながらも頷いた。
「…本当、僕が勝手に落ち込んでただけなんだけど…」
そう前置きして、小太郎は鞄から小さな包みを取り出した。
シンプルだが袋の口を締めているリボンが、贈り物であることを示している。
「これ?」
「うん…開けてみれば分かると思うよ」
そう言って袋を差し出される。
「え?俺が開けていいのか?」
「うん。もともと、そのつもりだったんだ」
言われて、ためらいながらもそっとリボンの端を引く。
するりと解けたそれを持ち、袋に手を差し入れる。
「…!! これ…」
中に入っていたのは、ブレスレット。
ただ、同じものが、すでに広の手首に嵌っていることが問題だったのだ。
昨日までは無かったそれが、今日は左手に銀色の輝きを添えている。
「…そう。びっくりしたんだ、僕があげようと思ってたものと同じだったから」
「そ、っか…」
おそらく朝は気づかなかったのだろう。
しかしほとんど広と一緒にいる小太郎だから、どこかで目にしてしまったのだろうと推測できた。
「ひろ、明日…誕生日だろ?でも、明日は休みの日だから…」
「あ…!!」
すっかり忘れていた、と広が声を上げる。
「そっか、それで今日持ってきてくれたのか…ありがとな」
笑いかけると、小太郎は気まずそうに俯いた。
「でも…!ひろがもう持ってるものだし…」
「何言ってんだよ!自分で買ったのより、小太郎がくれたほうが嬉しいに決まってるだろ」
「…え?」
目を丸くして、小太郎が広を見上げる。
「え、って?何…」
「…ひろ、それ誰かにもらったんじゃないの?」
「え?」
それを聞いて、広も目を丸くする。
そのまましばらく見詰め合っていたが、やがて小太郎の顔が一気に真っ赤に染まった。
「〜〜〜なんでもない!!」
「…小太郎?…もしかして、これを俺が誰かからもらったんだと思ってたのか?」
「…そ、そうだよ。僕があげたいと思ったのと同じのを、もう誰かからもらったんだと思った!」
ぷいっと真っ赤なまま、そっぽを向く。
「なんで何でも無い日に、俺がプレゼントをもらうんだよ」
笑いを含んだ声で言うと、小太郎は恨めしそうな目線を投げかける。
「誕生日の前の前の日だから、ってもらったかもしれないだろ」
恥ずかしい、とすっかり拗ねてしまった小太郎に、広は苦笑する。
「小太郎。じゃあ、こうしようぜ」
言いながら、自分の腕に嵌っているブレスレットを外す。
「…何?」
急に手を取られ、小太郎が訝しげに見る。
「ほら」
しゃらりと音を立てたブレスレットは、小太郎の手首に。
「え?ひろ、これ…」
「いいだろ?俺が買ったのをお前にやるから、俺はお前にもらったのを使う」
そう言うと、広は小太郎からもらったブレスレットを器用に自分でつけた。
「で、でもこれ…ひろに似合うと思って買ったんだから、僕にはちょっと…」
合わないよ、と言いながら振られる小太郎の手を捕まえて、手首に軽く口付け。
「ひろっ」
「小太郎は嫌なのか?俺とお揃い」
咎めるような小太郎の声を遮って、手首に唇を添えたまま、目を見つめる。
「…嫌じゃないよ。嫌じゃないけど…」
「けど?」
「……学校でこういうのつけるのは、本当は駄目なんだぞ」
悪戯っぽく笑って、小太郎が言う。
「かたいこと言うなよ!」
ばしっ、と背中を叩く。
「痛っ…ひろっ!!」
やめろって言ってるだろ!と元気な声が響く。
「ごめんごめん、ついうっかりな!」
口調とは裏腹にその顔が笑っていたから、広も笑いながら再び歩き始める。
「ほら、何ぼーっとしてんだよ。帰るぞ」
ぱっと自然に取った手は、振りほどかれることはなく。
「うん、帰ろう」
そっと握り返された。






通学路でいちゃつく二人…(笑)もうできてる(できてる言うな)ひろこた話。別に今日はひろの誕生日ではない(駄目じゃん)