からこたその2


「小太郎!!」
唐紅の目に映ったのは、小太郎の背後から躍りかかる闇。
次の瞬間、頭の中が真っ白になった。
「・・・唐紅さんっ!!」
小太郎を突き飛ばして攻撃は防いだが、自分は避けきれず、攻撃を食らう。
吹き飛ばされた体は痛むが、小太郎に向かって行こうと蠢く闇に、渾身の一撃を食らわせる。
「・・・させぬ!!」
闇が消滅すると同時に、意識が遠のいた唐紅もその場に倒れこんだ。

「唐紅さん・・・!!」
小太郎の顔がすぐ近くに見えた。
唐紅は小太郎の柔らかな頬を流れる涙を拭おうとして、もう腕どころか指の一本すら動かせないことに気づく。
「・・・・・・・・・小太郎・・・」
何度も声を出すことに失敗し、ようやく名前を呼ぶ。
「唐紅さん、・・・どうしてっ・・・!!どうして!!」
手を握る小太郎の手とは対照的に、唐紅の手は冷たくなってきていた。
「・・・お前を護るは・・・我の、望みだ・・・長い時を経てようやく、叶った・・・」
苦しそうに呼吸する唐紅の手を握る手に、小太郎はさらに力を込めた。
「・・・怪我は、ないか」
初めて会ったときと、同じ言葉。
初めて会った唐紅は、座り込んだ小太郎に、怪我は無いかと声をかけた。
「はい。・・・はい、ないです。唐紅さんのおかげで・・・」
涙を拭って、無理矢理笑った小太郎の笑顔に、唐紅も微かに微笑んだ。
握られた手を握り返して、安堵の表情を見せた。
「そうか。ならば良い・・・。強く突き飛ばした故、どこか怪我をしたのではないかと・・・」
唐紅の声が段々弱弱しくなっているのが小太郎にも分かった。
「唐紅さん、無理しないで・・・」
小太郎は無理しないでください、と言おうとしたが、唐紅に遮られる。
「・・・良い。我はこのまま、朽ちるしか道は無い・・・。なれば、我は・・・」
「唐紅さん・・・っ!!そんな、そんなこと言わないで下さい!!僕は・・・僕は・・・!!」
拭っても拭っても溢れる涙を拭うことをやめ、小太郎は両手で唐紅の手をしっかり握る。
唐紅は力を振り絞って手を持ち上げ、小太郎の涙で濡れる頬に触れた。
「小太郎・・・我は楓だ。・・・本来木々は、根を張り、風に揺れるのみ。
我は・・・お前に会えたのだ、充分、幸運だった」
ふ、と儚く微笑む唐紅に、また小太郎が悲痛に眉を寄せた。
「嫌です、僕は・・・唐紅さんがいないなんて・・・っ耐えられないよ・・・!!」
ぽろぽろとまた小太郎の目から涙が零れる。唐紅が指で拭うが、次々雫は零れ落ちた。
「・・・小太郎・・・。我のためにお前が涙を流すことはないのだ。小太郎・・・」
す、と軽く握られた手を引くと、簡単に小太郎は唐紅に引き寄せられた。
そのまま口付けると、柔らかな唇は仄かに涙の味がした。
「・・・っ唐紅さ・・・」
「小太郎・・・この体、朽ちたとて・・・」
そのまま小太郎の耳に吹き込んだ言葉は、どんなものより強力な呪縛だとわかっていたけれど。
それでも、唐紅は言わずにはいられなかった。
舞い上がる楓の葉は、どこまでも深く、紅く。


「小太郎ー!!・・・行こうよ、小太郎!」
白迅に呼ばれ、小太郎は振り返る。
「うん、ごめん!!今行くよ!!」
その手に持った鞄には、赤い紐が結わえられていた。
「・・・小太郎、その紐・・・」
「うん。・・・返してこなきゃ、唐紅さんに」
向かうのは、楓の木。
鎮守の森に生えるただ1本の楓。
その木の下で微笑んだ、あのひとはもういないけれど。
「僕の気持ちも・・・変わらないよ、唐紅さん」

この体、朽ちたとて
お前への想いは永久に変わらぬ






あーはずかしーよまじでー