からこたその4


「はあ〜っ、寒いなあ・・・!!」
大きく息を吐くと、白い蒸気が雲のようにふわっと上がる。
もう冬も近づいた頃のこと、小太郎はダッフルコートのポケットに手を入れて、とぼとぼと道を歩いていた。
近くのスーパーで買い物をした帰り道は、あまりに冷え込んでいる。
「・・・唐紅さん、大丈夫かなあ・・・楓のひとだから、寒さには弱いし」
八魂の社の近く、鎮守の森。
その中に一本だけ、色鮮やかな楓の木が生えている。
それが、唐紅。
もうすぐ雪が降るとの予報もあり、小太郎は赤い後ろ姿を思った。
「・・・・・・小太ー!!いたいた、まだこんなトコ歩いてたの?早くおウチに入りなよ、寒いよ?」
白迅が半纏を羽織って迎えに来た。
その姿があまりにも間抜けで、小太郎は苦笑した。
「白迅、そんな格好でここまで来たの?あははっ、面白すぎるよ!」
「うっ・・・も〜、そんなことはいいの!寒いよりマシ!!
そんなコト言ってると、からさん帰らせちゃうよ〜?」
にやりと笑った白迅に、小太郎は目を丸くした。
「え、唐紅さん、来てるの!?」
「うん、さっき来たよ〜。小太郎に会いに、ねv」
ウインクした白迅を軽く肘で小突いて、小太郎は足を速めた。

「ただいま〜」
家に入ると、白迅の言葉どおり唐紅がいた。
いたことはいたのだが、様子が違う。
「ねえ、唐紅さんってば、お父さんの若いころの服ぴったりなのよ!」
清江がはしゃいでいる。
「小太郎・・・」
対する唐紅は、小太郎に助けを求めるように視線を寄越した。
その服装は、グレーのセーターに程よく色の抜けたジーンズ。
さらにその上に黒いコートを無造作に羽織っている。
あまりに良く似合っていて、小太郎も開いた口が塞がらない。
服装に合わせて解かされたのだろう、髪も結っておらず肩口にかかっているのがまた、何ともいえない。
「唐紅さん、似合うね・・・その服」
「おっ、からさん、いいなあ〜。今の時代の服じゃん。僕も着たことないのに〜」
その言葉に清江が反応して、目を輝かせる。
「白迅くんも着てみる?まだ確かあったわよ、お父さんの若い頃の服」
「え、いいの〜?やったあ、着る着る!!」
うきうきと奥に引っ込んだ白迅と清江を呆然と見送って、小太郎はふわっと笑い口を開いた。
「唐紅さん、かっこいい」
「・・・・・・小太郎・・・」
言われた唐紅は、困ったように眉を僅かに寄せた。
その顔が珍しくて、小太郎はますます笑顔になった。
「ね、唐紅さん。僕と一緒にこのまま出かけませんか?」
「・・・・・・? 構わないが・・・」
どうしてこの格好だと出かけるのか、が分からない唐紅は不思議に思いながらも頷いた。
仕方が無いので、少し気恥ずかしかったが小太郎は説明する。
「唐紅さん、今の格好なんだから、自然に町を歩けるでしょ?折角だから二人で色んなところを見たいなあって」
着物だと浮いてしまうが、今の格好なら多少は自然に町に溶け込む。
髪色だけは、仕方が無いのだが。
「うむ、そうか。・・・・・・分かった、ならば行こう。お前がそう願うなら」
微かに緩んだ口元に、小太郎もつられて柔らかに笑った。

静かな町を、二人並んで歩く。
「小太郎、良いのか。・・・我と並んで歩くなど・・・」
例の「恥ずかしい」というのではないのか、と思った唐紅だが、小太郎はくすくすと笑う。
「いいんです。・・・どうせ、誰も見てないです。こんな時間に外を歩く人なんて珍しいですから」
言いながら、唐紅の手に触れる。
唐紅は小太郎の望みを察して、そっとその己の手より一回りも小さい手を握った。
「・・・唐紅さんこそ、いいんですか?僕と手なんか繋いじゃって」
終始くすくすと嬉しそうに笑っている小太郎に、唐紅も笑みを返した。
「我はこれで良い。いや、こうさせて欲しい。・・・お前は我と外を歩くことを願ったが、
我はお前と共に在ることが出来れば何処にいたとて構わぬ」
途端に、唐紅を見上げていた顔が微かに朱に染まった。
今度こそ例の「恥ずかしい」という奴なのだなと、唐紅は笑った。
「・・・お前といるだけで、私は幸せだ」
駄目押しの一言を言われて、小太郎は完全に真っ赤になった。
「かっ、唐紅さん・・・っ!!誰が聞いてるか・・・」
「誰も聞いては居らぬ。・・・こんな時間に外を歩く者は、珍しいのだろう?」
自分で言った言葉を返されて、小太郎は唐紅にからかわれた事を知った。
「もう!唐紅さんってば・・・!!意地悪なんだからなあ・・・!!」
ぷいとそっぽを向いた小太郎に、唐紅はますます柔らかに微笑した。
「小太郎。・・・小太郎、こっちを向いてくれぬか」
そっぽを向いた想い人が振り向いて、口付けを落とされるまで、あと少し。






小太の恥ずかしがりは私似です・・・