しろさか文2
「白銀ー…まだ起きてる?」
「栄様。…はい。いかがなさいましたか」
夜。
かちゃ、と扉が開かれる。
そこに立っているのは栄。と、そこまでは白銀は既に気づいていた。
しかし栄が小脇に抱えているものまでは、分からなかったわけで。
「……? 栄様、それは…?」
白銀がそれを問うと、栄は恥ずかしそうに頬を掻いた。
「あ、コレ?…枕…なんだけど」
そう、寝る準備万端の栄が抱えてきたのは、部屋に備え付けの白い枕。
それを何故、と言いたげな白銀の様子を察して、栄が俯いてためらいがちに口を開く。
「…あの、さ…眠れなくて…」
ああ、と小さく声を漏らした白銀に、栄が目線を上げる。
「それで、私のところに…」
一人納得した様子の白銀に、栄が戸惑う。
「え、え?白銀?わかったのか、俺が言いたいこと」
静かに白銀が頷く。
「おそらくは…眠くなるまで私のところに、ということでしょうか」
言うと、栄は少し頬を赤らめてまた俯いた。
「あ、ええと…うん、それでもいいんだけど…。……」
黙り込んだ栄に、白銀はきょとんとする。それから、ふっと微かに微笑んだ。
「……申し訳ございません。少し読みが浅かったようで…」
「え?」
すっと背中に手が添えられたと思うと、次の瞬間には持ち上げられていた。
「うわっ!」
思わず枕を取り落として首筋にしがみつく。
そっと下ろされたのはベッドの上。真ん中より、少し壁寄りに。
「し、しろっ…」
「…栄様の部屋のものより狭いものではありますが…寝られないほどではないかと」
言いながら髪のリボンを解き手袋を外すと、自らも横になりながら毛布をかける。
「ちょっ、白銀…っ!!スーツ、しわになるから…!」
「…今はあなたがお休みになるほうが大切です」
寒くはありませんか、と言いながら微笑む白銀に、栄も嬉しそうに笑った。
「白銀…一緒に寝てほしいの、分かってくれたのか。へへっ」
照れたように頬を掻く栄の背中を抱き寄せて、耳に囁く。
「…傍におります。安心してお休みください…」
「…うん。ありがと…」
僅かにその胸にすり寄って目を閉じる栄に、再び微笑んで。
枕元の灯りを落とすと、柔らかな闇が広がった。