しろさか6


「しろがねー」
ひょこっ、と白銀の私室の扉から顔を覗かせたのは、栄。
「栄様。どうぞ」
それはもはや常のこととなっていて、白銀も驚いた様子はなく、微笑んで迎え入れた。
部屋に入ると、定位置となっている椅子に座る。
それは白銀が栄のために用意したもので、いつ栄が来ても良いよう常に同じ場所に置かれているものだ。
何か読んでいたらしい白銀は眼鏡を外し立ち上がると、栄に少し待つよう告げて部屋を出た。
「…別にいいのになあ」
毎回のことなのか、苦笑しながら改めて栄は部屋を見回す。
部屋はすっきりと綺麗に整頓されていて、本人の性格が表れているよう。
何より、部屋に入った瞬間仄かに香る香りが、栄は好きだった。
「何か、白銀、って感じで…いいよな…」
一人呟いていると、微かな音がして扉が開く。
「お待たせ致しました」
「あ、おかえり」
栄の言葉に微笑むと、淹れたての紅茶と少しのお菓子を前に置いた。
「へへっありがと」
「いえ…」
にこりと笑うと、早速紅茶に手を伸ばす栄を、白銀は穏やかに見つめる。
「やっぱ、白銀が淹れるとおいしいんだよなあー紅茶。あと、お菓子もおいしいし」
「そう、でしょうか…」
戸惑うような白銀の様子に、栄は笑顔で頷いた。
「うん、俺、白銀の紅茶好きだよ」
言ってから、はたと動きを止めた栄を、白銀が見つめる。
「……もっ、もちろん、白銀だって、好きだからな」
みるみる真っ赤になった顔で、恥ずかしそうに目を伏せて。
言われた言葉に、僅かに目を見開く。
決しておいしい物に釣られているわけではないのだと、懸命に伝える様子が微笑ましくて、
「…はい」
思わず次の瞬間には唇を奪っていた。
「……」
唇を離すときょとんとした栄と目が合い、再び口付けそうな距離のまま微笑む。
「〜〜〜〜〜〜っ」
ぼっ、と音がしそうな程、更に赤くなり目が零れそうなほどに見開かれる。
「しっ、ししししろがね…っ」
「はい」
「……ずるい」
「はい」
静かに微笑む白銀の様子がどうしても悔しくて、栄は白銀の首元のリボンをぐいっと引っ張り、傾いだ頬に軽く口付けた。