どうかしている。
 夜狩はそう毒づいた。それは今の状況のことであり、夜狩自身のことでもあった。夜狩は白迅を脇に抱え、夜の街を翔けて行く。
 白迅は眠っている。正しくは眠らされた、というべきか。
 牙血が絡んでいることがわかってから、白迅はどうも神経質になりすぎていた。小太郎の前では何とか隠し通せていたようだが、神同士が顔を合わせた時にはそうもいかない。小太郎が気付かないのが不思議なほど、白迅は神経を張り詰めていた。
 それもこれも。
「あの馬鹿の所為だな」
 牙血の顔を思い出しながら、夜狩はまた毒づいた。
 蛇と兎だから相性が悪い、という訳ではなかった。牙血が闇を統括する存在に身を落としたこと、そして自分たちの前に立ちはだかっていること。その事実が白迅を追い詰めている。その位、旧知の仲である夜狩にはわかっていた。おそらく日和も、八魂も、唐紅も。
『白迅なら心配要らないわよ・・・多分ね。古傷抉られて混乱してるだけ。時間が経ったら頭に昇った血も下がるわよ。・・・・・・でも、あんたは心配なんでしょ?』
 香仙にはそう言われた。図星だったので何も言い返せなかったが。
 このままでは白迅が潰れる。今はまだ小太郎を気遣う余裕もあるようだが、それもいつまで持つかわからない。
 そこで一計を案じたのは意外にも昇姫だった。事情を知らないなりに、彼女も白迅を心配していたらしい。何かあるごとに思うことだが、彼女は周りが思うほど弱くないし、大胆だ。
 彼女は唐紅にあることを頼んだのだ。唐紅もそれを了承した。それで、こんなことになっている。
 夜狩は静かに高度を下げる。目指す先は、街を見下ろせる高台だった。


 おそるおそる手を出すと、彼は皮肉そうに笑った。
 手を引っ込めようとすると、彼はすかさずその手をとった。
『獲って食いやしねぇよ』
 そう言ってまた、彼は皮肉そうに笑った。
 彼の眼は蛇のように冷たかった。けれど、そのてのひらも冷たかった。
『俺は、牙血』
『・・・僕は、白迅』
 そう名乗ると、彼は皮肉そうに笑った。
 そういう笑い方しかできないのだと、その時気がついた。


 白迅はまだ目覚めない。唐紅が白迅にどんな夢を見せているのか、夜狩にはわからない。白迅を連れ出す前にそれとなく訊いたが、唐紅はあのポーカーフェイスで首を横に振っただけだった。
 白迅の耳を、そっとつまんでみる。ふかふかとしている一方で、ひどく薄い。兎だから仕方ないのか、と夜狩は自分を棚に上げて納得した。
「・・・早く起きろよ、馬鹿ウサギ」
 いつもなら返ってくるはずのわめき声が聞こえない。
 白迅はただ眠っているだけなのに、夜狩は何故だか不安に思った。白迅の頬を軽くたたいてみる。やはり目覚める兆しはない。
「おい、白迅」
 夜狩は眉根を寄せた。どうしてこんなにも不安なのか、自分でもわからない。


『逃げ足だけは速いな、お前』
 そう言って、彼は皮肉そうに笑った。
『そういう君こそ、威嚇だけは上手いよね』
『格の違いだろ?』
『落とされた身の上でよく言うよね〜』
『闇に比べりゃ数段上だろ?』
 そう言ってまた、彼は皮肉そうに笑った。
『まあ、そうだけどね〜』
『それに俺は、後悔なんかしちゃいねぇさ』
 白迅の肩をぽんとたたくと、彼は皮肉そうに笑った。
『僕だって』
『じゃあ・・・いいじゃねぇか』
 何故だろう。
 彼はその時だけ、ひどく優しい笑みを浮かべた。


 白迅が身じろぎした。夜狩はぴくりと反応する。
「・・・何だ、まだ寝てやがんのか」
 なかなか目覚めない白迅に、夜狩は不安からか段々苛立ってきた。白迅の頬をぎゅっとつねってみるが、目覚めないどころか何の反応もない。ただ安らかに寝息を立てている。
「・・・おい、白迅?」
 流石に様子がおかしい。唐紅の術で眠っているとはいえ、何の反応も示さないのは妙だ。流石に夜狩が唐紅の名を呼んでも彼が駆けつける訳がないし、白迅を置いてこの場所を離れる訳にもいかない。
「くそ・・・あいつどういう術かけやがったんだ」
 そう毒づくが、応じる者は誰もいない。夜狩は白迅の肩を掴んで揺さぶった。がくがくと白迅の頭が揺れるばかりで、目覚める兆しはない。
「おい、白迅! 白迅!」
 夜狩の声ばかりが高台に響いた。


 彼がいない。
 どこにも、いない。
 広がるのはぽっかりと口を開けた闇ばかりだ。
 彼がいない。
 どこにも、いない。
 周りには誰もいない。
 どこへ行けばいいのかも、わからない。
 なまえを呼んだ。返事はなかった。
 もう一度呼んだ。返事はなかった。
 今度は叫んだ。返事はなかった。
『牙血・・・?』
 どこにいるの。
 僕を置いていったの。
『牙血・・・!』
 置いていかないで。
 戻ってきて。
 もう一度呼ぼうとして、思い出した。
 彼はもう、僕の隣に立ってはくれない。
『・・・・・・っ』
 誰を呼べばいいのか、わからない。

『白迅』
 とおくから、呼ぶ声が聞こえた。
『白迅』
 誰かが、呼んでいる。
『白迅』
 彼ではない、誰かの声。
「白迅」
 けれど耳に馴染む声。
「白迅」
 飽きるほど耳にしている声。
「白迅!」
 ああ、そうか。
「白迅!」
 この声は。
「白迅・・・!」


「やかりだ・・・」
 どこかのんびりとした声と共に、白迅がゆっくりと目蓋を開けた。真紅の瞳が露わになっていく。
「白迅・・・」
 どこか縋るような眼をした夜狩が、白迅を覗き込んでいる。白迅はしおらしい様子の夜狩がどことなくおかしく思えて、くすりと笑った。
「何笑ってやがる」
「何でもないよ〜。ただ、夜狩だぁと思って」
 白迅はそう言うと、夜狩の頬をぺち、とたたいた。
「ったく、世話の焼ける・・・・・・」
 夜狩がそうぼやいた。顔が赤っぽく見えるのは、白迅の思い過ごしだろう。
「牙血の夢を見たよ」
「・・・・・・」
「昔の夢。牙血がまだ、僕らと一緒にいてくれた頃の」
「・・・白迅」
「牙血の手、冷たかったの覚えてるんだ」
 白迅は泣き笑いにも似た表情を浮かべた。
「牙血が闇についた理由が、わからないんだ」
「そんなもん、あの馬鹿に問い詰めでもしなきゃわかんねぇよ」
「でも・・・不安なんだよ。牙血だって僕らと同じ落とされた神で・・・なのに人間の世界に絶望してしまったのかもしれなくて。そんなの・・・!」
「馬鹿」
 夜狩は白迅の頭を自分の胸に押し付けるようにして抱き込んだ。
「! やか」
「今お前が一番考えなきゃなんねぇのは小太郎だろ」
 白迅の身体が硬くなるのがわかる。夜狩はあやすように白迅の髪を手で梳きながら、言葉を続けた。
「今度こそ守り通すんだろ。だったら蹴散らすだけだろうが。相手が闇だろうが・・・・・・牙血だろうが、関係ねぇだろ」
「・・・・・・」
「それとも、お前も牙血の所に行くか?」
「・・・行く訳、ないじゃないか」
「だったら、もう迷うんじゃねぇよ」
 お前はもう選んじまったんだろ、と夜狩が囁いた。
「あいつを、止めるんだろ」
「・・・うん」
「小太郎を死なせたくないしな」
「うん」
 子供のように頷く白迅の頭に、夜狩は額をつけた。
「白迅」
「・・・なに、夜狩?」
「・・・・・・俺の手は、冷たいか?」
「・・・冷たいよ。夜狩の手は、牙血より冷たい」
「そうか」
 夜狩はそう答えると、白迅を強く抱きしめた。



 やっ☆ちゃっ☆たー☆ 偽者警報発令中! 注意!
 牙血がホントどんなポジションにいたのかわかんなかったので。知り合いだったってことは仲間? とか思ってこんな捏造をしてみたよどうだろうか。ダメでも笑って許してくださいマジで。
 こんなん書いといて白迅には小太郎至上主義でいてほしいとかダメですか。
 こんなんでよければ受け取ってくだされ。

***
こここ、これ心臓に悪いから・・・!!(汗)
やばいですあんたもしかしてウサカミの展開先読みしてたりしないだろうな・・・!!
とりあえず、ごめんと先に言っておくよ・・・ははっ(爽やかに笑)
牙血のポジション・・・まあ、いいや。好きに妄想してくれい。
小太郎至上主義・・・いいね(笑)
がっつり受け取った上に晒してるのでよろしくっ!(笑)
また頼むよー(笑笑)