番外編壱・2


「小太は、すっかり日和に懐いちゃってるんだねえ」
「う、うるさいな。だって、日和さんってお兄さんみたいな感じがするんだもん」
小太郎が日和に笑いかけると、日和も微笑んだ。
「ふふ、嬉しいですね。私も小太郎のような弟がいたら可愛いと思いますよ」
「こ、小太郎〜!!お兄ちゃん代わりならここにいるじゃないか!!さあ!!」
ばっと手を広げる白迅を、小太郎がどついた。
「何がお兄ちゃんだ!!でかい弟ができたみたいだよ!!」
「ふふふ。二人は本当に仲がいいのですね」
「でっしょ〜?やっぱり日和もそう思うよね!!」
「ひ、日和さん〜!!」
二人が正反対の反応を見せると、日和はますます笑った。
「・・・あれ?日和さんも、白迅も、持ってるんですね。赤い珠」
白迅は、髪の先に。日和は首飾りになっていた。
「ああ、これ〜?これはさ、僕ら神の命だよ」
さらっと言った白迅に、小太郎は突っ込んだ。
「へえ〜・・・って!!そんな大事なもの無防備にしてていいのかよ!」
「大丈夫ですよ、小太郎。心配はいりません」
小太郎の肩に手を置いて、日和が小太郎に微笑む。
「この珠は、他の者には絶対に割ることはできないのです。自らの意思で、珠を割るか、その神が滅びるとき、共に珠も割れる。
ですから、見えるところに出しておいても大丈夫なのですよ」
「・・・これはね、命であると同時に力の源なんだよ。僕らはこれを媒介にして力を行使する。他にもいろいろなことが出来るけどね」
白迅が笑って言った。
「そうなのか・・・あれ、でも大きさが全然違うよ?」
小太郎が二つを見比べて言うと、日和が答えた。
「大きさは違っても、大した差はありません。ただし、数は大事です。珠の数で、神の力が分かるのです」
大きさはあまり関係ないが、数はその神の命の数を表しているのだという。
「そうそう。見栄えの問題だよ、要はね」
「・・・つまりお前は目立ちたがり屋なんだな」
小太郎がそう言うと、白迅は大げさに嘆いた。
「ひ、酷いよ小太郎〜!!可愛いじゃないか、大きい方が!!あ、でも小太郎は小さい方が可愛いけどね!!」
「余計なお世話だ!!可愛いとか言うな、可愛いとか!!」
またぎゃあぎゃあと言い合い始めた二人を見て、日和が楽しそうに笑った。

「・・・小太郎、白迅と共にいるのは・・・楽しいですか?」
ふわりとした笑顔のまま尋ねる日和に、小太郎はにこっと笑って言った。
「はい、そこそこ」
「小太郎っ!!そこそこって、そこそこって〜!!」
その小太郎の回答に白迅が大げさに嘆く。
「ふふ、それはよかった。白迅が嫌われたのでは、私たち神が嫌われたも同然ですからね」
「え?」
日和は穏やかな表情を少し皮肉っぽくして言った。
「白迅は、この通りの性格ですから。白迅のせいで私たちが迷惑を被った事は、数知れません」
あなたにも迷惑が及んでいるのではないかと、と日和は言った。
「ひ、日和ー!!ひどいひどいっ、いいもん、僕先に帰っちゃうからねー!!」
だっ、と走り出した白迅をぽかんとした顔のまま見送って、小太郎は日和を振り返った。
「・・・行っちゃいましたね・・・」
「ええ、そうですね。・・・全く、気を利かせているのか、そうでないのか・・・」
日和が呟いた言葉は、小太郎にはよく聞こえなかった。
「小太郎、白迅は、人の世界にいた時間がとても長いのです」
にこりとして話し始めた日和を、小太郎は真摯に見つめる。
「もちろん、私も。でも、人を理解したのは、白迅の方がより深かった」
「・・・日和さん・・・?」
「ですから白迅が嫌われたのでは、私たちは、到底あなたに好かれようがない、ということなのですよ」
先程の話のことだろう。
白迅は、日和が小太郎と二人でこの話をしたがったのに、気づいたのだろうか。
「・・・おそらく、白迅はしばらく戻ってきませんよ。私と二人で待っていましょうか、小太郎」
「はい」
日和の口ぶりから、白迅が戻ってくることを悟った小太郎は、素直に頷いた。