番外編弐


遠い昔の物語。
一柱の神がいた。名は夜狩。
遠方の地、山奥で、小さな社に宿っていた。

「おとうちゃんの病気が、治りますように!」
小さな子供がやってきた。
毎日毎日、水を汲みに行く途中でここを拝んでいく男の子だ。
「・・・ったく、俺にはそんな力はねえってのによ」
神の得手不得手。そればかりはどうしようもない。
胡坐をかいて、その膝に肘を乗せて頬杖をつく。
夜狩は梟であり、この小さな小さな道端の社に入れられる前は、大きな神社で暴れていたものだった。
「そういう事は、薬とかの神にでも頼まなけりゃあ・・・ん?」
いつもとは違うことに気づいた。
小さな鈴が、社の目の前にひとつ。
「・・・これは、あのがきんちょのもんじゃねえかよ」
ちりちりと鳴るその鈴がうるさくて目を覚ました日もあるのだから、間違いない。
「ま、気づきゃあ持ってくだろう」
一人でいるのは退屈だ。しかもこんな小さな社で、しかも道端で、何をしろというのか。
「・・・上の奴が考えることは、わかんねえな・・・」
自然と、独り言も多くなるもの。夜狩は苦笑して、ごろりと寝転んだ。
どうせ人間には見えていないのだから、だらけていても大丈夫だろうとばかりにごろごろする。
以前の社は、もっと大きくて、近くにも沢山の神がいたはずだ。退屈はしなかった。
何より、大きい社のため、祭りなども催される。その日にはつい夜狩も気分がよくなって、よく強風を吹かせたものだった。
他にも、色々あったのだが。色々とありすぎて、ほとんど覚えていない。
「・・・ま、そのせいでここになったんだけどよ」
ため息をひとつ。わかっているのだ、自業自得なんてことは。
「・・・・・・・夜狩」
その時、強い光を放つ人物が現れた。玉虫色の光は、強い力。
「・・・あんたか。今度は何だっつーんだよ、またさらに遠方か?」
特に悪い事はしていないはずだが、と夜狩が思っていると、その神は微かに笑い声を漏らした。
女とも男ともつかない、不思議な声がやんわりと響く。
「いえ、今回は移動では・・・。・・・・・・貴方に対ができます。心しておくよう」
「・・・対?」
まさかとは思ったが。
荒ぶる神が手に負えないときに使われる手段だとは聞いていたが。
「・・・俺かよ・・・」
二柱の神を融合させ、互いを枷とする法。
「・・・・・・貴方は問題を起こしすぎたのですよ。夜狩、対の名は日和。風を司る貴方達には、
新たに鳥たちを率いてもらいましょう」
「鳥を・・・?ちっ、しかも格下げかよ」
神の中でも、四元素を司る神々は高位の神だ。
火、水、土、そして風。
それぞれの項目は一柱ずつではないと聞いていたが、まさか同じ風に荒神がいるとは思わなかった。
「・・・いつだ」
「そうですね・・・まだ、日はあります。まだ日和を捕らえていないのです。派手に暴れているようで・・・」
「ふん、能無しめ」
「そういわずに。・・・とりあえず、今回はそれだけを。覚悟を決めておくよう」
最後にそれだけ言うと、すっと気配は消え、強い光ももうない。
「・・・言うだけ言って、行っちまいやがった」
あと何日、自由でいられるのか。
あと何回、この風景を見られるのか。
また、ため息をひとつ。