番外編弐・2


次の日も、夜狩は肘を突いて寝転がったままでいた。
思考は停止しているのか、そうでないのか。
ぼんやりと見つめるのは、道端の鈴。
「・・・あのガキ、気づかなかったのかよ」
どうせ今日も来るのだろう。そう思ってごろりと寝返りを打つ。
「・・・こんなところじゃ、暴れようにも暴れられねえよ」
最後のうさ晴らしも考えたのだが、土地自体の力が弱く、十分な力は得られない。
第一、こんなのどかな道端、嵐を起こしたところで何があるわけでもない。
またごろり。することもなく、人も通らず、辺りに響くのはカッコウの鳴く声。
「・・・・・・・・・退屈だー・・・」
ぼそり、呟いたとき、走ってくる草鞋の足音が聞こえた。
「・・・孫を、孫を助けてください・・・!!」
社を見つけるなり一生懸命拝みだす老人の姿。
「またかよ・・・!!俺には何も・・・」
ちり、と社の近くに落ちていた鈴が鳴った。
「・・・まさか、あのがきんちょ・・・?」
はっとして鈴を見る。あたりには風もなく、鈴が揺れる要素はひとつもない。
「・・・・・・おいばあさん、詳しく話せ」
「はぁ・・・?」
声はすれども姿は見えず。老人は辺りを見回す。
「いいから、さっさとしろよ」
気まぐれか、何なのか、夜狩は老人に声をかけた。

「なるほどな・・・」
話によると、あの子供は薪を集めている途中で崖から落ちて大怪我を負ったらしい。
傷自体は治療すれば徐々に治るはずなのだが、治療を受けても受けても治らないのだという。
「孫が何かして、神様がお怒りなんでねえかと・・・」
「おいおい、俺ぁ何もされてねえよ。しかし妙だな、薬が効かねえとは・・・よし、お前は帰れ。後は何とかやってみらあ」
「あ、ありがとうございます・・・」
まだ信じられないような顔でいる老人を追い払うように帰らせて、夜狩は社の前に降り立った。
精神を集中させる。風が夜狩を取り巻き、渦を巻く。
「・・・こりゃ、面倒なことになったな・・・」
しゅ、と風が消える。風が運んできた情報は、厄介なもの。
はあ、とため息をつく。最近多くなったそれに苦笑して、夜狩は歩き出した。
向かうのは森の中。

「・・・おい、いい加減、機嫌直してやれよ」
「・・・・・・何を偉そうに」
夜狩は一柱の神と対峙していた。
長い金糸の髪を一つに括った、白い神。
いつの間にここにいたのかは知らないが、見ない顔だ。
「少し反省してもらっているだけでしょう。気が晴れたらやめます」
「『少し反省してもらっている』間に死ぬかもしれねえから、こうして頼んでんじゃねえか」
「・・・それもまた業でしょう。私の知ったことではありませんね」
「あのなー・・・。ったく了見が狭いな、ちょっと石を崩したぐらいで」
「あれには私が宿っていたんです。それとわかるようにしておいたはずですよ」
「・・・・・・・・・」
確かに、石には紋様が刻まれていたのだが。
言い合いになったものの、夜狩はもともと口論が得意ではないため、だんだん嫌気がさしてきた。
「ああもう、いいさ、お前には構わねえ!!俺がお前の力を打ち破る!」
焦れた夜狩が言い放って向けた背中を、後ろから凛とした声が追ってきた。
「どうぞ。できるものならね」