番外編弐・3


啖呵を切ったはいいものの、その方法までは考えていなかった夜狩は、社で唸っていた。
「畜生〜・・・あの野郎、絶対に負かしてやる」
しかし相手は頭の回りそうな神。対するこちらは、力にものをいわせてきた類の神。
「俺が行っても・・・駄目か」
夜狩が直接出向いたところで、根本的解決は出来そうもない。
力でのぶつかり合いは勝つ自信があるのだが、術となると途端に怪しくなる。
「第一、一時的に術を払ったところで・・・ん?」
夜狩はふと、未だそこに転がる鈴に目をやった。
持ち上げると、ちりちりと小さく鳴った。
「そうか、これに・・・!!」
悪戯を思いついた子供のような顔で、夜狩はにやりと笑った。

一つ、もう夜だというのにまだ灯りが灯っている家がある。
忙しく動き回っている影が見えるそこは、あの子供の家。
梟に姿を変えた夜狩はするりと隙間から家に入った。
「おい、ばあさん」
水の入った桶を持って部屋に入っていこうとするあの老人を、夜狩は呼び止めた。
「・・・この梟は・・・?」
「この鈴、孫に付けな。絶対外すなよ」
床に置いた鈴を指して言うだけ言って、さっさと飛び立つ。
「あ、あのお声は・・・!!」
ようやく梟の正体に気づいた老人の驚いた声を聞いて、夜狩は楽しげに笑った。
今頃、あの白い神は驚いていることだろう。そう思うとますます愉快で、夜狩は高らかに笑った。

「・・・・・・貴方は、何という事を」
夜が明けて、早速夜狩はあの森に出向いた。
そこにいたのは、術を撥ね返されて傷を負ったあの神だった。
「名案だろ?」
「無謀な策ですよ・・・。自分の力を半分以上、あんな小さな鈴に託すなど」
「まあ、帰るのも大変だったけどな。途中で力が切れて、歩いて帰ったからなあ」
しかしそのおかげで、その小さな小さな鈴に凝縮された力は術を感じ取った途端に爆発し、
送られてくる力を防いだばかりでなく、見事に撥ね返した。
「爆弾のようなものを、人間に渡すなど。下手をしたらその人間も力で吹き飛びますよ」
「・・・本当か?」
「考えていなかったのですか!?貴方は、どこまで・・・!」
言うなり、さっと鳥に変化して飛び立った姿を見て、夜狩ははっとした。
「まさか、あいつ・・・!!」
鳥に変化するなど、風の神くらいのものだ。
「へえ、あいつがね・・・」
にやりと笑って、自分も梟に変化し後を追った。
おそらく向かったのはあの家だろうと。

そして後日、二人はまた再会することになる。
真白な場所で。
「・・・やっぱり、お前が日和だったか」
「貴方が、夜狩だったとは・・・」
ふっと、二人揃って苦笑する。
融合の法が発動すれば、こうして顔を合わせることもなくなる。
それでも、何とかうまくやっていけるような気がしている。
あの後、言い合って、ぶつかり合って、にらみ合って、
それでも結局子供は無事だったのだから。