番外編参・3


帰りの暗い道を、二人歩く。
「一緒に歩いてる人がいるだけで、だいぶ違いますね」
「・・・?」
不意に小太郎が口を開くと、唐紅は不思議そうな顔をした。
「僕、怖がりなんですよね。実はこんな暗い道とか、すごく怖いんです」
「そうか」
相槌を打つ唐紅は、小太郎の少し前を歩いている。
少し警戒したような気配を漂わせている唐紅に、小太郎は守ってもらっているのだと強く感じた。
「うわっ!!」
そんな安心が油断を生んだのか、小太郎は足元の空き缶に気付かなかった。思わず前に見えたものを掴む。
「小太郎!」
掴んだはずのものがすぽっと抜け、小太郎は派手にしりもちをついた。
「い、痛たた・・・」
「大丈夫か、小太郎」
唐紅が心配そうに近寄る。
「だ、大丈夫で・・・す!?」
確かに、小太郎は大丈夫だった。
「かっ、唐紅さん!!僕、これ!!」
「・・・? ああ、大丈夫だ」
「大丈夫じゃないじゃないですかー!!これ、髪でしょ!!?」
小太郎が転んだ瞬間、思わず掴んだものは目の前をひらひらしていた唐紅の後ろ髪だった。
小太郎の片手に一束ずつ、金髪が二束、綺麗にすっぽり抜けていた。
「小太郎。落ち着いて見なさい。・・・これは髢だ」
「か・・・かもじ?」
半分泣きそうになっていた小太郎を落ち着かせて唐紅が言うには、
後ろの二束の金髪は「髢」、いわゆるつけ毛なのだという。
髢の入っていた隙間が空いて、唐紅の髪をまとめていた紐も緩んで解けかけていた。
「そうだ。私の髪ではない。それ故、抜けても痛みは無い」
確かに落ち着いて見ればつけ毛であることがすぐ分かった。
唐紅は小太郎から髢を受け取って、髪を結い直した。
「はあ・・・そうだったんですか。びっくりした」
「驚かせたか。咄嗟に支えることが出来ずに、すまなかった」
つけ毛とはいえ髪を引っこ抜いておきながら、逆に謝られてしまって、小太郎はうろたえた。
「そ、そんな!!元はといえば僕が髪を掴んじゃったのが悪いんですから、謝らないで下さい!!」
「・・・・・・そうか」
少し、ほっとしたように唐紅が表情を緩める。
そんな様子に、小太郎は小さな氷の塊が溶けたような感覚を覚えた。
「そうですよ。じゃあ、行きましょう!!」
次の瞬間笑顔でそう言って、軽い足取りで歩き出す。
昔の思い出をすごく大切にしていたり。
冷たそうに見えて、実はすごく人を気遣っていたり。
小太郎は、いつも何を考えているか分からない唐紅を、少し理解できたような気がして嬉しくなった。