番外編四・1


「ただいまー」
間延びした口調で小太郎が帰宅を告げると、低いが凛とした声が返ってきた。
「遅かったな、小太郎」
「どえっ、唐紅さん!?」
その後ろからひょっこり顔を出したのは、狐色の影。
「よーう小太郎!!遊びに来たぞ!」
手を挙げてにっこり笑う八魂に、小太郎も知らず知らず笑みを零す。
「八魂も来てたんだ。・・・八魂は本当に遊びに来たんだと思うけど・・・唐紅さん・・・も?」
唐紅が遊びに来るわけがない。小太郎はそう思いつつ尋ねた。
「いや・・・我は」
「からさんは八魂が無理矢理引っ張って来たんだよ〜」
また違った声が部屋の奥からかかった。布の擦れる音がして、白迅が姿を現す。
おかえり、と一声かけて、柱に寄りかかる。
「白迅、ただいま。引っ張って来たって?」
八魂を振り返ると、にこにこと人懐こく笑ったまま答える。
「うん、オイラ一人で行くのもつまんないと思って、近くで寝てた唐紅を引っ張ってきたんだ!」
「え・・・・・・?」
暇さえあれば何もせず寝ている唐紅のこと、相当起きるのには時間がかかったに違いない。
八魂は、それをずっと待っていたのだろうか?この八魂が?
そう思ったのが顔に出たのか、白迅が小太郎の疑問を解消する。
「からさんは女子供、それから老人には優しいもんねえ〜」
「・・・・・・・・・そのようなことはない」
微かに唐紅の顔が赤くなった。そのまま踵を返して、部屋の奥に入っていってしまう。
「ははは、照れちゃった。ホントのことなのに〜」
白迅が楽しそうに笑う。八魂もその隣でにこにこしている。
「あははっ、そうだな!オイラが行ったら、すぐ起きてくれたぞ!一瞬、嫌そうな顔されたけど」
「もー、二人とも・・・。唐紅さんをからかうなよ」
ため息混じりに小太郎が言うと、白迅がさらに言った。
「褒めてるのにー。ねー、八魂」
「なー」
「二人とも、いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」
小太郎の問いに、両者別々の反応を見せる。
「あ、分かる〜?もー僕と八魂は兄弟と言っても過言ではない仲睦まじさだよね!」
「んなっ!!小太郎っ!!どこをどう見てオイラとコイツが仲良しだっていうんだよ〜っ!」
言いながら八魂の頭に肘を掛ける白迅にぽかぽかと八魂が攻撃する。
その様が本当に兄弟のようで、小太郎は思わず吹き出した。
「ぷっ・・・あはは、もー、二人とも。またやってるよ」
「じゃーね、小太郎。弟のような八魂と遊んでやりたいのは山々なんだけどねぇ〜、僕からさんに用事があるんだ〜」
言いながら手をひらひらと振って行ってしまった白迅の後ろ姿に、八魂が怒鳴る。
「誰が弟だっ!」
その八魂を宥めて、小太郎がにこっと笑う。
「まあまあ、八魂。それより、遊びに来たんだろ?」
「・・・うんっ!!」
きらきらと目を輝かせる様が神とはとても思えず、小太郎は更に笑みを深くした。