番外編伍・3


「あっははははははは!!」
「あはははっ・・・!!に、似合うよ、夜狩っ・・・!!」
「八つ当たり、大〜成〜功〜っ!!あははははっ!!」
笑い声が響く。
「てめぇら・・・!!後で覚えてろよ・・・!!」
ぎりぎりと悔しそうに歯噛みする夜狩だが、
二つに分けた三つ編みを更に高い位置でおだんごにした頭で怒っても、面白いだけである。
さらにどこから出したのか、藤の花のような飾りもつけられている。
「もう、夜狩があまり暴れるから、綺麗に出来なかったじゃない」
不満そうな昇姫だが、目が笑っている。
散々笑われた夜狩は、完全に目が据わってしまっている。
「・・・なんで俺がてめぇらのとばっちり食わなきゃなんねえんだ・・・!!っくそ、こうなったら・・・!!」
今度は夜狩が窓から飛び出していった。
「あ、あのさ〜・・・もしかして、あと残ってるメンバーって・・・?」
白迅がおずおずと口を開くと、小太郎と八魂は固まった。
「まさか・・・香仙さん連れてきたって、仕方ないよね・・・?」
香仙は正式な性別こそ男だが、心は女なので、嫌がるはずも無い、というかおしゃれとして普段もやりそうだ。
「う、うそだろ〜っ!?まさか、まさか来るはず無いけどっ・・・!!」
八魂も青ざめる。
「ふふっ、楽しみです」
一人、昇姫は楽しそうに笑う。
「おらっ!連れてきたぜ、こいつに出来るもんならやってみろよ!」
ばんっと激しい音をさせて、襖が開かれた。

ぜえぜえと肩で息をする夜狩の後ろには、誰が立っているのか。
昇姫を除く3人は、ぎぎぎぎ、と骨がきしむ音がしそうなくらいゆっくりと、振り返った。
「・・・急用とは一体何なのだ、小太郎。呼べば行くものを」
夜狩の後ろで腕組みしていたのは、やはり唐紅であった。
「か、からさんっ!!ちょっと夜狩、なにやってんだよ〜!そんな面白い頭でからさん呼びに行ったわけ!?」
「うるせえっ、てめえも充分面白おかしい頭だろうが!」
完全にヤケになっている夜狩に、八魂が我関せずを決め込んで視線をそらした。
夜狩としては自分が最後になるのは嫌だったのだろう。
「唐紅さん、何も言わずに帰ってください・・・いや、逃げてください・・・」
小太郎が言えるのはそれだけ。
しかし、少し遅かったようだ。
「唐紅さん、お願い。少しの間だけ、髪の毛触らせてください」
既に昇姫が真正面をキープして袖の端を掴み、微笑んでいる。
もはやこのお方を止める事は出来ません。
3人の被害者と小太郎は、そう思った。
「な・・・いや、しかし・・・」
昇姫の言葉と3人の頭を見て、ようやく自分の置かれた状況を悟った唐紅が後ずさるが、
その分昇姫は前に進み出る。
「大丈夫。そんなに凝った風にはしませんから、編むだけ。ね?お願いします」
お花もつけません、と食い下がる昇姫。どうやらよっぽど唐紅の髪は昇姫にとって魅力的らしい。
「・・・・・・・・・」
黙って髪の紐を解いた唐紅のため息で、傍観していた4人は昇姫の勝利を悟った。

ことり、と静かに、昇姫は櫛を置いた。
「はい、出来ました。ふふっ、唐紅さん、美人だからやり甲斐がありました」
「こ、こりゃあ・・・まあ、アレだな・・・似合うじゃねえか」
「普通に似合うじゃーん、からさん」
「おお〜・・・オイラたちよりよっぽどまともだなっ」
「唐紅さん・・・、大丈夫ですか?」
口々に賞賛する被害者たちと、先程から一言も発していない唐紅の心配をする小太郎。
「・・・・・・もう、気は済んだのか」
発せられた声に、少し混ざるため息。
唐紅がここまでぐったりとするのも珍しい、いや、100年に1度見られるかどうかわからない。
高めに上げて括られた髪の一部分、2束だけを三つ編みにした、ちょっぴりお洒落な髪型。
編むだけと言っていた割に少し手の込んだその作品は、妙に唐紅に似合っていた。
「はい、大満足です。有難うございました、唐紅さん」
にっこり笑った得意げな昇姫に、被害者一同は盛大なため息をついた。