番外編陸・3


次の対戦は、唐紅と八魂。
・・・のはずだったのだが。
「おーいっ、唐紅ー!!やろうやろう、腕相撲ー!!」
「我は、よい・・・八魂、他の者とやると良い」
唐紅、趣味は昼寝。
ずっと自らを封じて眠っていたことも関係してか、唐紅は暇さえあれば鎮守の森の木の下でまどろんでいる。
今回は、転寝の最中に、叩き起こされた形になったわけで。
当然、寝足りない唐紅は半分眠りそうになっている。
「ありゃ・・・からさんってば・・・。・・・・・・八魂の不戦勝でいい?」
「えー!!オイラ、やりたかったー!!」
「良い・・・我は、少し眠る」
地団駄を踏む八魂に構わず、完全に壁に身を預けて目を閉じてしまった唐紅に肩をすくめて、白迅が進行する。
「はい、八魂、不戦勝ー」
その後の展開は、あっという間だった。
小太郎に勝利した昇姫もさすがに夜狩の力には勝てず、夜狩が勝ち進んだ。
意外だったのは八魂と香仙の対戦で、何が起きたか分からないうちに香仙の勝ちが決まっていた。
決勝は、夜狩vs香仙。
「へっ・・・お前にだけは負けねえぜ・・・」
「ほほほ・・・アタシに勝てると思ってるのかしら?」
静かな炎が見える。
「香仙さんって、意外と強いのかな?」
「さあ・・・どうなんだろ。僕も、香仙と腕相撲なんてしたことないから、わかんないんだけど〜」
遠巻きに見守る小太郎と白迅も、首を傾げる。
「くっそー!!何で香仙に負けたんだかオイラわけわかんないぞ!!」
八魂は地団駄を踏み、その隣では唐紅の静かな寝息が聞こえる。
「二人とも、がんばってください」
昇姫は相変わらずにこにこと楽しそうだ。
「オカマにだけは負けたくねえな!」
「んまーっ!!聞き捨てならないわよ、今の台詞は!!
オカマなめんじゃないわよ!!夜狩、勝負よ勝負!!」
夜狩の一言ですっかり頭に血が昇ったような香仙が、ばんっと肘をついて構えた。
「へっ、言ってろよ。望むところだ!」
その勢いに乗るような形で夜狩も肘をつき、がっちりと手を握り合う。
そのまま笑顔で目だけが笑っておらず、にらみ合いを始めた2人の手に、小太郎が手を添える。
「これが決勝だから、二人とも頑張ってね!・・・レディー・ゴー!」
ぱっと小太郎の手が離れた瞬間、ぐっと双方力を込めた。

「おーっほほほほほ!!やったわ、オカマの底力よ!!
夜狩、金輪際オカマを馬鹿にするんじゃないわよー!!」
「ちっくしょ〜〜っ・・・あいつ、強ぇ・・・」
扇子を広げてあおぎ、高笑いして喜ぶ香仙とは対照的に、がっくりと肩を落として手をさする夜狩。
勝負は香仙の勝ち。
「は、はははは・・・香仙さん、強いんだ・・・夜狩より」
「あはは・・・香仙、強かったんだね〜・・・夜狩より・・・」
「香仙・・・強いんだな・・・夜狩より」
小太郎、白迅、八魂が口々に言うと、夜狩が吼えた。
「うるせえぞ、お前ら!!何ならやってみろ、こいつ本当に強いぞ!!」
「香仙さん、やりましょう。わたしも香仙さんとやってみたいです」
「あらぁ〜、女の子に乱暴なこと出来ないわよー。アレはね、男限定よ」
ごめんなさいねえ〜、と言って楽しそうに笑う香仙を見て、
小太郎、白迅、八魂、夜狩の4人は一様に少し青ざめ、
香仙だけは怒らせないようにしようと心の中で誓うのだった。