番外編漆・2


「小太郎っ!呼んだ!?どうしたの・・・、・・・アレ、だね?」
宙から突然現れた白迅を警戒するように動きを止めた影を見据えて、白迅が言うと、小太郎はぎこちない動きで頷いた。
「で、出たんだよ・・・あれ、もしかして、ゆうれ・・・」
「違う違うー。そんな曖昧なもんじゃないよ。アレ、・・・闇だよ」
「・・・・・・・・・は?」
思いがけない白迅の言葉に、小太郎は勢いよく白迅を見上げて間抜けな声を上げた。
「だからー、闇だってば。うん、間違いない。小太郎の友達のアレ・・・何だっけ、まあいいや。あのコの輪郭を真似たんだろうけど」
言いながら、袖を固定しているベルトを外す。
不意に言葉を切ったかと思うと、それを影に向けて勢いよく投げた。
「・・・不完全なんだよねー。ほら、すぐ崩れる」
投げられたそれが当たったかと思うと、その影はどろりと溶けて形を無くした。
「ほ、本当だ・・・何だ・・・闇だったんだ・・・」
何だ、と何回も呟く小太郎に、白迅は肩をすくめた。
「何だ、って・・・闇だって充分キミにとって怖いものなんだよ?もう〜・・・。ま、いいや」
それから、廊下に広がる闇を見据えたまま、小太郎に言った。
「悪いんだけど、応援呼んでくれる?僕一人じゃちょっと消せないんだよね」
それから小太郎が夜狩と唐紅を応援に呼ぶと、白迅はにっと笑った。
「うん、いい勘してるよ。からさんは特に、バッチリかもね」
「俺はいらないとでも言いたげだな?」
「ったり前でしょ〜?からさんと僕だけで充分だったよ」
夜狩の言葉に、白迅が応じて言い合いになりかけたが、闇が動いたためぴたりと中断して二人とも向き直る。
「・・・来るぞ」
唐紅が静かに言うと、白迅と夜狩の目に好戦的な光が宿った。
「じゃー、からさん。後方支援頼んだよ〜」
「・・・承知した」
「俺は勝手に行かせてもらうぜ。唐紅、勝手に術でも何でもしていいけどよ、邪魔するなよ」
言うなり地を蹴った夜狩の背に、唐紅は微かに苦笑しながら言った。
「・・・・・・努力しよう」
「あー!夜狩、勝手に行くなって!も〜!小太郎、僕も行くね〜」
片目を瞑って軽く言い、白迅も駆け出した。
それを見送って、唐紅は小太郎を見下ろした。
「・・・我から離れぬよう。我がお前を守る故」
「はい、わかりました」
それに答えて、小太郎は前を見据える。
夜狩が上空から、白迅は地を縦横無尽に駆け回る。
「あー!からさん、逃げる逃げる〜!!」
「・・・承知」
白迅が慌てた様子で叫ぶと、唐紅がすぐさま術を放つ。
楓の嵐に遮られ、廊下の向こうに流れ出そうとした闇が動きを止める。
「ちっ、狭いな・・・!!くそっ」
やはり屋根のあるところでは本来の動きが出来ないのであろう夜狩が舌打ちする。
「もー!往生際が悪いぞ〜!逃〜げ〜る〜な〜!!・・・もうちょっと、纏めれば・・・!!」
くるくると忙しく駆け回って闇の進路を絶つ白迅が叫び、ちらりと夜狩を目線だけで見上げる。
その意図を理解して夜狩が頷き、動きを止める。
目を閉じると、額に光が集まり始めた。
「成る程。・・・我も援護しよう」
その様子を見た唐紅も二人の行動を理解したようで、素早く印を描くと、朱色の針で闇を床に縫いつけた。
「おおっ!やるぅ、からさん!」
「よし・・・そのままにしとけ!一気に消すぞ!」
青い光が夜狩の額の前で凝縮され、一層その色を濃くする。
「あわわわ、避けないと!」
白迅が慌てて後退した瞬間、稲妻が走ったような光が溢れた。